『真田丸』主人公より父役・草刈正雄の存在感が際立つ理由  “成長物語”としての側面を探る

 そんな信繁を演じる堺の気になるコメントを見つけた。初回冒頭シーンの信繁は49歳であり、赤備えの鎧をまとい最後の戦に挑んでいるが、堺に言わせれば「これはあくまで仮の姿」という。つまり、「一年間撮影を重ねる中で、終盤に向けてより凄みのある信繁を作り上げていく」という決意表明なのだ。堺は撮影現場で見聞きし、感じたものを採り入れて、自らの演じる信繁をパワーアップさせようと試行錯誤している。こうしたことができるのは年間ドラマならではであり、堺はそれを見据えて一年間を逆算した演技プランを考えているのではないか。

 “成長物語”という観点で見れば、敵役の家康も同じ。現時点では、うっかり火傷したり、信長の顔色をうかがったり、昌幸を過剰に警戒するなど、いかにも小物のムードを醸し出しているが、これも仮の姿。戦国の世をくぐり抜け、天下人になる家康の変化も当作の見どころであり、演じる内野の姿が注目を集めるだろう。

 最近の大河ドラマでは『軍師官兵衛』で黒田官兵衛を演じた岡田准一が、有岡城での幽閉を経て姿を一変させ、出家して剃髪姿の如水になるなど徐々に凄みを増す様子が話題になったが、今回も信繁と家康の変わり身に期待できそうだ。

 『真田丸』における三谷の脚本は、女性たちによる現代劇風のコメディーシーンこそあるものの、「史実しっかり描き、笑いはほどほどに抑制しよう」という意志を感じる。武田勝頼(平岳大)の最期に涙腺を刺激され、織田信長の危うさにドキドキし、明智光秀(岩下尚史)の「敵は本能寺にあり」にハッとさせられたように、今後も単なる信繁の成長物語ではなく、親兄弟が袂を分けて戦うようなシビアなシーンを見せてくれるだろう。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。

■ドラマ情報
『真田丸』
毎週日曜20時から放送中
作:三谷幸喜
制作統括:屋敷陽太郎、吉川邦夫
プロデューサー:清水拓哉、吉岡和彦
出演者:堺雅人、内野聖陽、大泉洋、長澤まさみ、黒木華、木村佳乃、草刈正雄、高畑淳子
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/sanadamaru/index.html

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