『エベレスト 3D』が”体感”させる極限状態ーー圧倒的リアリズムの背景を読む

『エベレスト3D』が描く陰惨なリアル

丹念に描かれる遭難事故の背景

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 本作の登山者たちは 、奇妙な氷柱が散見されるベース・キャンプから、複数のクレバスが口を開ける氷河「アイスフォール」、「ウェスタン・クウム」と呼ばれる、氷河の谷間を抜けていく斜面を登り、山頂へと向かっていく。その途中には、いくつものキャンプがあり、彼らはそこで一時の休息をとり、さらなる高度に体を慣らしながら、何日もかけて進んでいく。そして「サウスコル」と呼ばれる最終キャンプから、登頂への最後のアタックに臨むことになる。そこからは、「デス・ゾーン」と呼ばれる、人が生存することができない地帯に足を踏み入れなければならない。「バルコニー」と呼ばれる見晴台に到着することができれば、あとはエベレスト初の登頂成功者から名づけられた最後の難所「ヒラリー・ステップ」を越えるだけだ。

 足場が極端に狭い岩場であるヒラリー・ステップでは、登山者同士が追い越したり、すれ違ったりすることができず、渋滞が発生することになる。ロープ設営の不備も重なり、その日は予定が大幅に遅れてしまったため、頂上を目の前にして引き返す登山者らも現れる。デス・ゾーンに長く留まること、そしてそこで夜を迎えることは、あまりにリスキーなのだ。とりわけ、娘の学校の友達の協力で登山の資金を集めたダグは、今回で二回目の挑戦であり、是が非でも登頂する理由があった。ガイドのロブは、大幅に遅れている彼の登頂を許せば、大きなリスクを抱えることを承知で、つい登らせてしまう。その後すぐに発生した嵐によって、登山隊らは未曾有の窮地に直面することになる。圧倒的なリアリティと映像、豪華な役者陣の演技で見せきる地獄の世界は、ぜひ映画館で、息苦しさを味わいながら「体感」してほしい。

「なぜ山に登るのか?」

 本作の重要なテーマは、「なぜ山に登るのか?」という問いかけである。ジョシュ・ブローリンが演じるベックは、彼にとっての一つの答えを語る。「家にいると黒い雲が来る。だが、山に行けば俺は生まれ変われる」…人間は、社会性の中で日々生活している。しかし山には、社会から切り離された孤独な世界がある。そこには社会的なルールも、正義も悪も無い。ただ命を与え命を奪う、自然の物理的な現象と、自分の肉体があるだけだ。だからこそ、そこでだけ自分の命を本当に実感することができる。

 登山のための資金など社会的な理由によって、本作の登山隊は、それぞれに登らざるを得ない事情があり、そのことが彼らを窮地に追いやったといえるだろう。この事故は、自分自身の肉体と山との関係とは無縁の、人間社会の理屈を優先した結果かもしれないと、本作は語っているように思える。しかし、陰惨で息苦しい、凍りつくような山の描写の中にも、あたたかなシーンが救いとして描かれていることも確かだ。人間が山に登るのは生を実感するためだが、山を降りる理由は社会性にこそあるという、もうひとつの真理を、ひとつの救いとして提示しているのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『エベレスト 3D』
TOHOシネマズ 日劇ほか全国公開中
監督:バルタザール・コルマウクル
出演:ジェイソン・クラーク、ジョシュ・ブローリン、ジョン・ホークス、ロビン・ライト、エミリー・ワトソン、キーラ・ナイトレイ、サム・ワーシントン、ジェイク・ギレンホール、森尚子
原題:Everest
配給:東宝東和
(c)Universal Pictures
公式HP:http://everestmovie.jp/

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