橋口亮輔監督は新作『恋人たち』で何を描こうとしたか? 東京国際映画祭での発言から考察

橋口亮輔監督『恋人たち』の背景

故・淀川長治の言葉

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 目には見えない“心のなかの欠落”を抱えながら、それでも生きてゆく人々の姿を誠実に描くこと。それはデビュー作『二十歳の微熱』(1993年)以来、橋口監督が一貫して描き続けて来たテーマでもある。監督は公式インタビューで、こんなふうに語っている。「この映画のなかでは、誰の問題も解決しません。でも、人間は生きていかざるを得ないんですよね。映画を作るうえで、僕は閉じた映画では駄目だと思っています。どんな悲しみや苦しみを描いても、人生を否定したくないし、自分自身を否定したくない。生きているこの世界を肯定したい。だから、最後には外に向かって開かれていく、ささやかな希望をちりばめたつもりです。人の気持ちの積み重ねが、人を明日へ繋いでいくんじゃないかなって」。

 心に傷を抱えながら、幸せを求めて彷徨い続ける3人の登場人物が最後に見た、ささやかな希望と言う名の光。ここ数年来、自身も困難なときを迎えながら、それでも今作の完成に漕ぎ着けたという監督は、自身の心の支えになったものとして、『二十歳の微熱』の頃に出会った、故・淀川長治氏の言葉を挙げていた。「あなたは、溝口(健二)や(ルキノ・)ヴィスコンティのように、人間のはらわたを掴んで描く監督だ」。そう語った淀川氏は、続けて『二十歳の微熱』の駄目な部分をこれでもかというほど列挙しながら、「何でダメか分かる? あんたには根性がないのよ!」とのたまったという。そして、「あなたは一回映画を選んだんだから、最後まで映画をやりなさい。水を飲んでもいい、盗みを働いてもいいから、映画を最後までおやんなさい。あんたはやれる」と、監督を激励したという淀川氏。その言葉を何度も思い出しては、その都度気持ちを括り直したという監督が、その出会いから23年後に撮り上げた映画『恋人たち』。「淀川先生の言葉は、僕にとって財産です。先生がこの映画をご覧になって、どう感じるのかは分かりませんが、駄目出しが少なくなっていたらいいなって思います(笑)」。そう語る橋口監督の表情は、自信に満ちたもののように感じられた。

 映画『恋人たち』は、11月14日(土)より、テアトル新宿ほかにて全国公開される。

(文=麦倉正樹)

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■公開情報
『恋人たち』
原作・監督・脚本:橋口亮輔(『ぐるりのこと。』『ハッシュ!』)
主題歌:「Usual life_Special Ver.」明星/Akeboshi
出演:篠原篤 成嶋瞳子 池田良 / 安藤玉恵 黒田大輔 山中崇 内田慈 山中聡 / リリー・フランキー 木野花 光石研
宣伝:シャントラパ/ビターズ・エンド 
配給:松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ 
製作:松竹ブロードキャスティング
©松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ
『恋人たち』クラウドファンディング:https://motion-gallery.net/projects/koibitotachi
公式サイト

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