『ロバート・アルトマン』ドキュメンタリーが描き出す“アルトマンらしさ”とは?
現在公開中のドキュメンタリー映画『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』は、これまでアルトマンの映画を一本も観たことがないという人でも楽しめる、実に興味深いドキュメンタリー作品に仕上がっている。『M★A★S★H マッシュ』(1970年)、『ロング・グッドバイ』(1973年)、『ナッシュビル』(1975年)、『ザ・プレイヤー』(1992年)、『ショート・カッツ』(1994年)など、数々の映画で知られている映画監督、ロバート・アルトマン。「インディペンデント映画の父」として、死後9年近く経った現在も、多くの人々に愛され続けている彼の“映画”と“生涯”は、果たしてどんなものだったのだろうか?
それを読み解くうえで、本作の監督、ロン・マンが用いたのは、「アルトマンらしさとは何か?」というテーマに特化した形で、ドキュメンタリーを作り上げるという手法だった。映画は、その冒頭で「アルトマネスク(アルトマンらしさ)」について、こう定義してみせる。1.現実をありのままに描写、社会批評的、ジャンルの転覆。2.ありきたりな規範に逆らう。3.破壊不能なこと。そして、この問いかけは、本作のなかで終始問われ続けることになるのだった。エリオット・グールド、ジュリアン・ムーア、ブルース・ウィリス、そしてポール・トーマス・アンダーソン監督など、本作に登場する11人のアルトマン映画の関係者たちは、アルトマンとの思い出やエピソードを長々と語るのではなく、「アルトマンらしさとは何か?」という問いに対して、端的に答えを求められるのだ。「人生、自由、そして真実の探求」、「人間の弱さ」、「くたばれハリウッド」、「ひらめき」……それぞれが思い思いの言葉で端的に表す「アルトマンらしさ」。聞けば聞くほど多面的に広がる「アルトマンらしさ」とは何なのか。その“答え”は、アルトマンという人間自身のなかにあるのだった。
アルトマンの妻である、キャスリン・リード・アルトマンの全面協力を取り付けることからスタートしたという本作。その中心にあるのは、関係者の証言ではなく、アルトマン自身の膨大な言葉と映像なのだった。作品ごとのインタビューはもちろん、映画祭などでの講演、さらには夫人が私蔵していたホーム・ビデオなど、集められた映像は、実に400時間を超えたという。様々な場所で自作について語るアルトマン。苦難の時期を迎えても、どこか泰然と構え、会話の端々にユーモアを忘れないその姿は、あらゆる意味で人間味に溢れている。もちろん、その発言も。たとえば、映画監督としての自身の姿勢に関して、彼は次のように語っている。「私は何も変わらない。同じことをやり続けるだけ。自分のやる仕事と人々の考えがうまく合えば成功する。失敗して過去の人と言われてもまた始める。私はまっすぐに歩むだけだ。他の人はブレるけど」。そして、自身の俳優との接し方については、次のように語っている。「俳優を気持ちよくさせ、もっとやれると励ますこと。やりすぎても笑われぬよう私が口実を用意しておく。“ひとつの家族”に見えるように努力する。みんなでラッシュを見たら、悪口など言わず酒を飲む。するとお互いが打ち解ける」。さらには、積年の企画として、レイモンド・カーヴァーの短編小説をマッシュアップした映画『ショート・カッツ』を撮った理由について。「普通の人々を描いているから気に入った。意志の弱さから出る行動とか偶然の出来事。物事は因果関係なく起きる。説明不可能なんだ。こう描くほうが実際の人生に近いと思う」。