“宇宙最強”のアクション俳優、ドニー・イェンの魅力と凄み そのサクセス・ストーリーとは?
そして、久しぶりに主演として現れたドニーは刑事役ながら、胸元がザックリ開いたシャツに、シルバーのアクセサリーという、およそ刑事に見えないファッションで登場し、変わらぬオレ様感を見せつけた。しかし、それは『COOL』の頃のように映画のバランスを崩してしまうものとは違う、あくまで映画全体のバランスの中でキラリと輝く、俳優ドニーの確固たる「個性」としての、より洗練されたナルシズムだった。
これを皮切りに、ドニーは再び俳優業をメインにしていく。この頃には、アクション俳優としての類稀なる身体能力、俳優としての長い経験で得た演技力、そして裏方で培ったアクション演出の手腕、すべてが高いレベルで整っていた。ここにきて、ようやくドニーは完成されたのである。
そして2008年、遂に大ブレイクを決定づける映画が発表される。『イップマン/序章』だ。実在した格闘家である葉問の活躍を描いた同作は、興行的・批評的にも大成功を収める。名実ともにドニーは、ジャッキー、ジェットと並ぶ「宇宙最強」のアクションスターになったのである。それは映画と真摯に向き合い続け、なおかつ自分を曲げなかった男の、数十年間に及ぶ長い苦労が報われた瞬間であった。
ドニー・イェン、御年52歳。たしかに単純な身体能力の面で言えば、『マッハ!』のトニー・ジャー、『ザ・レイド』のイコ・ウワイス、『デッドロック2』のスコット・アドキンスなどにはかなわないだろう。しかし、ドニーにはアクション監督としての経験で得た、確かな技術がある。ドニーはアクションの見せ方を心得ている人物なのだ。常に革新的なアイディアを格闘シーンに持ち込み、見たことがない格闘シーンを作り上げることができる。時代劇、SF、現代劇、コメディ、ノワール、どのジャンルでも対応できるのも強い。恐らく現代最高の格闘シーンを演出できる映画人の一人だ。
長い苦労を経て培われた確かな実力と、キャリアを通じて一貫する強烈なナルシズム(未だに劇中でよく服を脱ぐことを、ここに付け加えておく)。日本のファンはそれを理解した上で、リスペクトと親しみを込めて「ドニーさん」と呼ぶのである。
最初にも書いたように、ドニーさんのムーブメントは来年以降、国際的な盛り上がりを見せていくことは必至だ。長い苦労を経て宇宙最強まで成り上がった男、ドニー・イェン。そのサクセス・ストーリーはまだ続いているのである。
■加藤ヨシキ
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。
■公開情報
『カンフー・ジャングル』
監督:テディ・チャン
出演:ドニー・イェン/ワン・バオチャン/チャーリー・ヤン/ミシェル・バイ/アレックス・フォン/ルイス・ファン
撮影監督:ホーレス・ウォン
脚本:ラウ・ホーリョン/マック・ティンシュー
原作者:テディ・チャン/ラウ・ホーリョン
製作者:ワン・チョンレイ/アルバート・リー
製作総指揮者:ワン・チョンジュン/アルバート・ヤン/アルヴィン・チョウ
アクション監督:ドニー・イェン
100分
中国・香港