「小説推理」のWEB化から、なぜ再び“紙”へ? 双葉社の新文芸誌「Leaf」編集長が語る「紙とデジタルの相乗効果」

双葉社の新文芸誌「Leaf」編集長に聞く

 双葉社は創業80周年の節目を迎える2028年5月を控え、カウントダウン企画として新たな紙の文芸誌「Leaf」を創刊した。80周年にちなみ、第5号までに計「80」名の創作者が登場するという。1973年に創刊した「小説推理」をWEBマガジンへ移行した双葉社文芸出版部が、今なぜ紙の文芸誌を手がけるのだろうか。編集長の反町有里氏に話を聞いた。
(10月7日取材・構成/円堂都司昭)

「小説推理」のWEB化で見えた、読者に届ける手応え

――「Leaf」創刊以前から「小説推理」の編集長も務められているんですよね。

反町有里(以下、反町):そうです。2023年5月から雑誌「小説推理」の編集長を引き継ぎ、新規読者の開拓や制作コストの見直しに着手しました。でも、他社の文芸誌がWEB化したり、月刊が隔月刊化したりすることが公表され、業界全体で紙の文芸誌の状況がますます厳しくなるのを実感せざるを得ませんでした。「小説推理」でどんなに面白い作品が掲載されても、十分に読者に届けられていないジレンマもありました。

 そこで、染井為人さんの新連載「歌舞伎町ララバイ」を「小説推理」掲載とほぼ同時に双葉社の文芸総合サイト「COLORFUL」で毎週分割公開し、スマートニュースにも配信する初の試みを実施しました。結果として連載中に累計213万PVを獲得して、書籍化の際は発売前に重版がかかったんです。予想以上の良い流れを生むことができましたし、読者を待つだけでなく、働きかける重要性を感じました。

双葉社「Leaf」の編集長・反町有里氏

 2024年11月号から、紙版刊行とWEB版公開(10月10日第1回公開)を並行して運用し、市場の反応を見極めました。ほとんどの作家の方々も施策を歓迎してくださり、SNSで積極的に告知してくださる方もいました。ただ、会員登録が不要だと、従来の紙版と同様にこちらからの発信のみの一方通行になってしまう。だから、「小説推理」を2025年9月号から完全にWEB化するにあたり、無料の会員登録にはこだわりました。会員には定期的なメルマガで、連載作品の単行本化をお知らせしたり、時には連載作品がまとまったところで読者モニターになっていただいて、その感想を書籍化したときの帯に使わせてもらうなどの協力をお願いしています。

――そして「Leaf」が生まれるわけですが、創刊に至る経緯を教えてください。

反町:無料とはいえ、小説を読むのはかなり能動的な行為です。それでも「WEB小説推理」の会員数は日々増加していったんです。小説を欲する読者の存在を確信しました。小説をスマートニュースに配信する時、各担当者がつけた見出しによってPV数が前後する。こういうアプローチをすれば、これだけ読んでもらえると、数字で可視化されて励みにもなりました。WEB化することで全国どこでも、海外でも、直接届いている手応えが感じられました。そうしているうちに、原点に立ち返って紙の文芸誌をやってみようという想いが編集部で高まってきました。半世紀以上の歴史をもつ「小説推理」という紙の文芸誌を発行してきた双葉社として、それをなんらかのかたちで継承したいという声も部内で上がり、それが「Leaf」につながりました。

――誌名の「Leaf」は、どのように決めたんですか。

反町:編集部で30近く案を出して、今後、直接関わってもらう営業部、宣伝・プロモーション部、製作部、商品管理の部署の方々も含め、50名近くにアンケートをとり、圧倒的に票を集めたのが「Leaf」です。「Leaf」には双葉社の「葉」という意味のほか、ルーズリーフのようにページ、動詞だと「ページをめくる」という意味がありますから、紙の文芸誌にふさわしいタイトルになったと思います。

短編とテーマ特集で、新たな読者を開拓

――掲載する小説を全部短編にした理由はなんですか。

反町:「WEB小説推理」は長編メインなので紙の文芸誌では差別化をはかってすべて読切にしました。刊行スパンは10月と4月の年2回。この刊行ペースでの連載だと読者についてきてもらえないからというのもありますが、ふだん小説を読み慣れない人に手に取ってもらうには短編がいいという思いもあります。400字詰め換算にすると、創刊号では赤川次郎さんの13枚の掌編から、佐藤究さんの130枚、小田雅久仁さんの240枚超えの作品まで載っています。毎号、200枚程度の中編を必ず入れる予定ですし、この1冊で小説を読む達成感を味わってほしい。また、創業80周年にちなみ第1号から第5号までに計「80」名の創作者に登場していただきます。周年企画にすれば、会社も予算をつけてくれるのではないかという目論見も(笑)。

――掲載作の書籍化については、どのように考えていますか。

反町:「Leaf」の原稿の依頼時に「WEB小説推理」で書き継いでいただくようにお願いしていて、最終目標はそれぞれの作家さんの単著を作ることです。「Leaf」では、作家の方々にもご快諾いただけまして、校了した時点で各作品のオーディオブック化を進めています。こうした素早い展開が可能なのも、オーディオブックを積極的に進めてきた背景があるからです。直近ではオーディオブックの売り上げ実績も過去最高を更新する見込みで、作家の方々も紙の本との相乗効果を実感してくださっているのだと思います。

――創刊号は特集「街、あるいは何処かで」で、小説やエッセイ、対談だけでなく書評コーナーでとりあげた本までテーマに沿ったものになっていて徹底しているなと思いました。今後も、毎号ワンテーマで構成するそうですね。

反町:「街」特集は、私が提案しました。実在の場所でも架空の場所でも、異次元の世界でもいいので、どこか特定の場所をからめたものを書いてくださいと、作家さんにはお伝えしました。せっかく紙の文芸誌を出すのであれば、実際の街を舞台にした小説をご寄稿いただけた際には、ご当地の書店さんとなにか企画ができないかとも考えていました。実際、朝井まかてさんと一穂ミチさんが大阪の街を、木爾チレンさんと宮島未奈さんが京都の鴨川を、芦沢央さんが鎌倉を舞台にしてくださいました。染井為人さんとSUPER BEAVERの渋谷龍太さんには、編集者からのオファーもあって、新宿歌舞伎町を舞台に書いていただいています。現地の書店さんが主催して京都、大阪でトーク&サイン会を行いました。
※東京では、「Leaf」創刊号に対談を掲載した藤野千夜と志村貴子が、『団地のふたり』コミック発売記念を兼ねたサイン会を開催予定。


――執筆を依頼する作家さんは、どのように選んだんですか。

反町:テーマが先にあるので、このテーマをぶつけたらきっと面白い小説を書いてくれると思う方にお願いしました。2号めのテーマは「才能」です。ご依頼すると「自分には才能なんてないから」と謙遜されたりもするんですが、「才能がない」と思っている主人公で書いていただくのもテーマの範疇だと思いますし、「才能とは何ぞや」と才能自体を深掘りしてもらうのもいい。作家さんとそのテーマでどんな化学反応が起きるのかを、私たちもすごく楽しみにしています。

880円の価格設定と、書店で手に取ってもらうための工夫

――「Leaf」創刊号を拝見すると、雑誌よりも単行本に近い形態ですね。

反町:実際、ISBNコードは“書籍”です。大きな書店だと、文芸誌は雑誌コーナー、新刊の文芸書はべつの場所に並べられてフロアが違ったりする。せっかく良い文芸誌を作っても、新刊の文芸書の棚をチェックしている小説好きの方に届かなかったらもったいない。だから書籍コードで出したいと営業部や製作部に伝えました。判型にもこだわって、書店の文芸書担当者が新刊の平台や棚に並べやすいように四六判にしています。

――500ページ以上のボリュームで価格が880円(税込)なのも特徴ですね。

反町:低価格については正直、小学館の「GOAT」の登場が大きかったです。双葉社ではとても真似できない。とはいえ、「やっぱり価格を下げないと同じ土俵には上がれないよね」と営業とも話しました。営業部の部長が「せっかく創刊するんだから、インパクトのある価格で攻めないと」って言ってくれたので、すかさず「じゃあ80周年で作家80名なので880円(税込)で」と提案したら、話が通ってしまいました(笑)。

――544ページ・2段組の文字数から考えると、文庫全般より安いですよ。

反町:手にとりやすい価格設定にして小説を読む醍醐味を広く味わってほしいんです。「Leaf」という誌名には「物語の一葉を、心の幹に。」というキャッチフレーズが付いていますが、もう一方で「Leaf」から芽生えた短編の葉が、単行本という大きな幹になる過程を読者の方にも見守ってほしいという想いも込めています。この雑誌単体ではたとえ赤字でも、いずれ単行本化した際にはすでに作品のファンを作れているのではないかと思うので、先行投資に近いものがあります。「Leaf」で読んだ短編が収録された作家の単著がいずれ店頭に並び、その時に手に取ってもらえたら本望です。

――「Leaf」はデザインも雑誌っぽくないというか、本棚に並べたくなる感じです。

反町:今までにない双葉社のカラーを出してみたかったんです。「Leaf」のデザインはalbireo(アルビレオ)さんにお願いしていて、特に各作品に寄り添ったタイトル扉のデザインには注目してほしいです。

 表紙は、毎号異なるイラストレーターさんを起用するので、読者の方にはぜひコンプリートしていただきたいですね。創刊号ではタカラカオリさんに素晴らしいイラストを描いていただけました。

 帯がついているのも、文芸誌としては珍しいと思います。キャッチコピーなどが載っているにぎやかな帯をはずすと、作家名だけが載っているシンプルな表紙になるので、韓国の「テキストヒップ(読書はおしゃれ)」現象のようにSNSで「Leaf」を読んでいる姿をアップしてもらえたら嬉しいですね。

「Leaf」は棚に並べたくなるデザインだ。

「読書人口を増やしたい」出版各社の懸命な取り組み

――小学館の「GOAT」、河出書房新社の「スピン」、中央公論新社の「アンデル」、またU-NEXTのWEB文芸誌「文学茶釜」など、近年は文芸誌に関して様々な動きがありました。他媒体との差別化や共通点として意識されていることはありますか。

反町:共通するのは、アプローチの仕方は違っても、どの媒体も小説を読む人たちを懸命に掘り起こそうとしていること。韓国で20代の読書率が7割を超えたと注目されたり、アメリカでもデジタル疲れから紙の本に回帰しているといわれます。日本でもそういう動きが今後あるかもしれないし、そのきっかけを出版社は作れるはず。低価格にしたり無料のWEB媒体にするのは、長いスパンで読書人口を増やしたい各出版社の切実な願いから生まれているのではないでしょうか。今、物語に触れる層を厚くしておかなければ、今後新たに本を買ってくれる読者をなかなか創出できない。

 「小説推理」をWEB化する時、編集部内の共通認識は「積極的なWEB化」でした。紙の文芸誌から撤退するのではなく、作品と読者のタッチポイントをいかに増やすかを目標にしたんです。作家の方にも、そのことを強調して御了解をいただきました。紙ではなくWEB化することで、書店をないがしろにしていると思われてしまうかもしれません。でも、連載された作品がいずれ単行本化された暁には、WEBに公開されたそれまでの期間に世の中の本好きな人たちへのアプローチがある程度できているので、書店にしっかり還元できると考えています。

 双葉社では「WEB小説推理」も「Leaf」も、書籍も文庫も、作家の担当はすべて同じ編集者なので、先を見据えた動き方ができます。「Leaf」に掲載された短編は「WEB小説推理」で書き継いでいただき、短編集や連作短編集、長編の冒頭に構成し直してもらって書籍化へ……といった具合に、長いスパンでおつきあいをお願いしています。これは、作家担当制にしている当社文芸出版部の強みだと思います。

――「WEB小説推理」の場合、誌名からしてミステリー中心ですが、実際の内容はエンタテインメント全般といえますよね。

反町:そうですね、間口は広くしています。作家さんには「人の心の変容を描いていただければ、それだけでミステリーとも言えるので、そういう解釈で書いてください」とお願いして、家族小説や青春小説も掲載しています。「Leaf」も、各号1つの特集という大きな枠はありますが、ジャンルを超えて書いていただけているので、読者の方にはこれまで手を出してこなかったジャンルにも、ぜひ手を伸ばしていただけたらと思います。

コンテンツの出口が多様化しても、核にあるのは物語

――エンタテインメント業界では既存のジャンルやメディアの枠を越えてコンテンツを展開する動きが盛んになっていますが、それと出版の関係の変化をどうとらえていますか。

反町:コンテンツの展開は、かつては「小説やマンガがヒットして映画やアニメになる」のが主流でしたが、現在はSNSやWEB発のコンテンツが多様化して、それが紙の出版物になってヒットする事例もたくさんある。一昨年にnote創作大賞で双葉社賞を受賞した長瀬ほのかさんの『わざわざ書くほどのことだ』は、noteに連載されたエッセイを書籍化して数度の重版がかかり注目を浴びました。

 でも、コンテンツの出口がどれほど多様化しても、小説でいえば核となるのは「人々の心を揺さぶる物語そのもの」であることに変わりはない。「WEB小説推理」を通して、デジタル上で「物語」を愛する読者の皆さんとダイレクトにつながり、反応や熱量を肌で感じてきました。デジタルだからこそ得られたその知見やスピード感を活かし、あえて今、「紙の文芸誌」という手触りのある形で新たな体験をご提供したいんです。

――「Leaf」創刊号への反応はもう入ってきているそうですね。

反町:発売前に、決定稿のゲラ読みをお申し込みいただいた書店員さんに感想を寄せていただきました。「特に印象に残った作品はどれですか」というアンケートでは、回答がけっこう分かれてはいるんですが、それでも赤川次郎さんの作品が多かったんです。掌編で読みやすかったというのもあるかもしれないですけど、やっぱり抜群に面白いんですよ。たとえふだん小説を読まない人でも、赤川次郎さんの名前は知っているでしょうから、読んでみようと思わせるはず。稀有な存在です。

――「スピン」(2026年6月の第16号が最終号)や「アンデル」(2026年1月から2年間)は期間限定の刊行ですが、「Leaf」は80名の作家がみな登場した第5号の後も継続する予定だそうですね。先については、どのようなヴィジョンを持っていますか。

反町:あらゆるメディアで手軽にコンテンツを消費できる時代だからこそ、作家がゼロから生み出した物語を「手元で1ページずつめくる」体験自体が、今の読者にとって極上のエンタテインメントになるはず。「物語の一葉を、心の幹に。」という「Leaf」のキャッチフレーズには、そんな願いを込めています。 余談ですが、スマホを手放せない中学生の娘が、ある映画を見てからその原作を読んで「お母さん、本ってこんなに面白いのに700円ってヤバいね」と言っていたことが印象に残っています。

 今後も、各担当者がこのテーマで書いてもらいたいという作家さんにご執筆を依頼していきます。作家さんの眠れる側面を掘り起こせる特集を作っていけたらと考えています。「そんなことをぶつけてくるんだ」という驚き、そういうものに挑んでいただける雑誌にしていきたいですね。


■書誌情報
『Leaf Autumn 2026』
創刊号テーマ:街、あるいは何処かで
価格:880円(税込)

発売日:2026年10月21日
判型:四六判並製(カバー無し・帯付き)
刊行予定:4月・10月の年2回
出版社:双葉社

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