徳間書店、なぜプロ作家を対象とした「ネクストブレイク作家賞」を創設? 担当者に聞く、異例の公募賞の狙い

徳間書店文芸編集部が、プロ作家を対象とした新たな公募賞「第1回ネクストブレイク作家賞」を創設した。二作目の壁や休止期間を経て再デビューを目指すプロ作家の支援を掲げ、選考形式には「5枚以内のプロットと20枚以内の冒頭原稿」という異例の規定を採用。さらに受賞作の「電子出版確約」など、厳しさを増す出版環境の中で新たな可能性を探る挑戦的な賞となっている。
編集部主導で選考が進む本賞の狙いや応募作の傾向、そしてプロ作家と編集者が走らせる今後の展望について、徳間書店文芸編集部の野間裕樹氏に文芸評論家の若林踏氏が話を聞いた。(編集部)
※メイン画像は近年刊行された徳間書店の文芸作品。ミステリー、SF、歴史、青春、ホラー、社会派まで幅広いラインナップとなっている。
順調に本を出し続けることが出来る人は、率直に言ってほんの一握り
――「ネクストブレイク作家賞」は、小説を商業出版した経験のあるプロ作家を対象とした賞です。このような賞を立ち上げたきっかけを教えてください。
野間:デビュー後に二作目、三作目が出せなかった作家さんや、あるいは何らかの事情で執筆活動から離れていた作家さんが再び作品を出せるようなお手伝いをしたい、というのが大きな理由です。文芸界では毎年多くの小説新人賞が開催されており、数多くの新人作家が誕生しています。いっぽうでデビュー後に二作目、三作目と順調に本を出し続けることが出来る人は、率直に言ってほんの一握りだと思います。昨今の出版事情を鑑みると、一層そのような状況に陥りやすくなっている気がします。だからこそ「作家を続けていきたい」という人の再デビューを支援したい、という思いから「ネクストブレイク作家賞」を立ち上げました。応募資格には「小説の新人賞受賞歴のある方」や「商業誌での連載経験、寄稿経験がある方」も含む、と記載しております。ただし自費出版や同人誌などで活動される方は除きます。応募ジャンルについては「エンタメ小説全般」とし、ミステリ・SF・ホラー・時代小説など特定のジャンルには拘らず受け付ける形にしました。
――同賞は完成作品ではなく、「5枚以内のプロット、および20枚以内の冒頭原稿」を提出する形になっています。このような応募規定にした理由を教えてください。
野間:小説の新人賞というより、編集者との企画打ち合わせに臨んでいただく様な形にしたかったからです。ふだん作家さんとの打ち合わせでは、簡単なプロットを用意してもらって作品を詰めていくという流れで行うことが多いです。短い原稿枚数のなかでプロットを上手く纏めることが出来れば、その時点でエンタメ作品の面白さはある程度保証されるでしょう。冒頭原稿を提出してもらうのは、読者の心を素早く掴む作品になるか否かを判断するため、という理由があります。なかなかハードルが高い、と感じる応募者も中にはいるかもしれません。ただ本賞は「小説を商業出版した経験のあるプロ作家」の方を対象としたものになっています。作家として既に編集者と作品を作り上げていくプロセスを経験しているのであれば、そのハードルはクリアできるのではないかという期待もあり、敢えてプロットと冒頭原稿のみ、という規定にしました。選考においては応募作家のキャリアやこれまでの出版業績などは一旦考慮せず、あくまで提出いただいたものでフラットに評価します。
――受賞作には「電子出版の確約」を行う、とあります。場合によっては紙の出版もあり得ると応募要項に書かれてはいますが、このような形を取ったのは何故でしょうか?
野間:「ネクストブレイク作家賞」の創設には作家の再デビューを応援するという目的の他にもう一つ、電子出版の可能性を探るという思いも込められているからです。紙の高騰や流通コストの上昇など、フィジカルな本を作って売るための環境がどんどん厳しくなっています。そのような中で出版業界が活路を見出す手段の一つとして、やはり電子出版を充実させることが挙げられると思います。紙の本を出すコスト負担を減らす、というよりも電子のオリジナルコンテンツを増やしていきたいという側面が強いですね。もちろん、応募者の中には「それでも自分は紙の本が良い」と思う方もいるでしょう。例えば完成した受賞作を切り分けて電子配信し、後で紙の本にまとめて刊行する、という出版の方法もあると思います。受賞したプロット・冒頭原稿を基にした完成作品しだいで、最適な出版形態が変わってくるものもあるでしょう。電子と紙、双方が持つメリットを活かしつつ、フレキシブルに対応していければと考えています。
プロ作家さんたちの期待に十分応えられるような賞に
――第1回の応募締め切りは2026年9月30日でした。既に選考が始まっているかと思いますが、応募作の全体的な傾向など、現時点でお話しできるものがありましたら教えてください。
野間:たいへん有難いことに多くの皆様からご応募いただきまして、現在は徳間書店の文芸編集部内で応募作を振り分けて選考を行っている状況です。応募規定の通り、ジャンルは様々ですね。選考途中ですので具体的なことまでは申し上げられませんが、例えばライトノベルでご活躍されている方が一般文芸に近い作品内容でご応募されるなど、レーベルによる壁を飛び越えて小説を書きたいと思っている方が多いのかな、という気がしています。単に再デビューを目指すというより、作家としての活動領域を広げる目的で本賞に応募いただく傾向も強いと捉えております。こちらとしても、作家さんの可能性を広げるお手伝いが出来るのであれば非常に嬉しく思います。
――外部の下読みや選考委員を立てずに、徳間書店の文芸編集内部で最終選考まで行う形になっています。講談社が主催する「メフィスト賞」などと同じく、編集者の思いが強く反映される賞であることも大きな特徴であると感じています。
野間:そうですね。先ほど「ネクストブレイク作家賞」は編集者との企画打ち合わせに臨んでもらうのに近い、という話をしましたが、私たち編集部員も選考というより企画会議を行っているような感覚に近い気がしています。これから応募作の選考は進んでいくわけですが、単なる「面白い」「つまらない」の判断だけではなく、「最近の文芸シーンと照らし合わせて、このジャンルは果たして読者の興味を引くだろうか」「いや、ヒットした先行作品があるから、この応募作も売れるのではないだろうか」といった議論を編集部員の間で交わしながら受賞作を選んでいくことになると思います。選考内容のフィードバックについては、公式サイトのQ&Aで「応募作に講評はしておりません」と一応は書いております。ですが、何かしら応募いただいた方のヒントになるような形で発信したいなと思っています。
――お話を伺っていると、編集者の果たす役割がかなり大きい企画であると感じました。受賞作品もプロットと冒頭原稿の段階ですので、そこから面白い作品を完成できるか否かについて作家本人はもちろん、編集者の導きも相当に重要ですよね。
野間:いま、話をしている内にどんどんプレッシャーがかかってくる気がしました。おっしゃる通り本賞はプロットと冒頭原稿のみで受賞作を判断するわけで、そこから受賞作家さんと打ち合わせをしていく中で変わり、最終的に完成作品がどのような形になるのか分からない部分も大きいです。プロの作家を対象にした賞であるとはいえ、作品の完成まできちんと伴走できるか、編集者の力量が多分に問われることになるでしょう。受賞作の刊行時期については「編集部と受賞者で協議して決定します」と告知しており、「この時期までに刊行します」という具体的なスケジュールは決めておりません。作家さんとの打ち合わせ次第で変わっていく可能性があるからです。ただし一刻も早く作品を出したいと願う作家さんもいるでしょうし、第2回の応募を始める際には第1回受賞作が何らかの形で出ている方が理想ではあると考えています。じっくりと作品に向き合いつつ、必要以上に長い時間をかけず、受賞作をお届けできればという気持ちはあります。確かにプレッシャーではありますが、次なるチャンスを掴みたいというプロ作家さんたちの期待に十分応えられるような賞にしていくつもりですので、ご声援の程よろしくお願いいたします。
■募集要項
第1回ネクストブレイク作家賞
募集期間:8月1日〜9月30日
応募資格:小説を商業出版したことがあるプロ作家(新人賞受賞歴、商業誌での連載・寄稿経験のある方も含む。自費出版・同人誌は除く)
応募ジャンル:エンタメ小説全般
応募内容:プロフィール、プロット(A4版5枚以内)、冒頭原稿20枚以内
応募形式:Web応募(専用フォーマットをPDF化して提出)
選考委員:徳間書店文芸編集部
賞:担当編集のサポート、電子出版確約、弊社規定の電子印税
主催:株式会社徳間書店 文芸編集部
問い合わせ:bungei@shoten.tokuma.com




















