ジュンク堂×『満月珈琲店の星詠み』 仕掛け人の書店員と編集担当が語る「世界観を届ける戦略」

星のシロップがたっぷりかかった満月バターのホットケーキ。金星アイスに月光コーヒーをかけた惑星アイスのアフォガート。線香花火のアイスティーに、水星のクリームソーダ――。
想像するだけで心ときめくメニューが登場する、ファンタジー小説『満月珈琲店の星詠み』(文春文庫)。満月の夜に現れるトレーラーカフェを舞台に、猫たちによる星詠み(占星術)と極上のスイーツで、迷える人々を導く連作短編シリーズだ。桜田千尋による美しいイラストと、望月麻衣による癒しのストーリーが話題を呼び、30か国以上で翻訳版の刊行が決定していて、世界累計発行部数はすでに100万部を突破している。
2020年に第1巻が発売されて以来、毎年新刊を刊行。今年10月には、第8巻『満月珈琲店の星詠み ~星猫たちのクリスマス・キャロル~』、名言集『満月珈琲店の星詠み特装版 人生がきらめく魔法の言葉』、そして初のコミカライズ第1巻と、3作品を連続刊行した。
これを記念して、丸善ジュンク堂書店全国23店舗で「満月珈琲店の星詠み POP UP STORE」を開催(うち21店舗は11月8日まで)。また、MARUZEN café 京都店では、作中に登場するメニューを実際に味わえるコラボカフェもオープン(11月1日まで)。グッズは売り切れが続出し、コラボカフェには開店前から行列ができるなど、作品の世界観を楽しめる企画にも注目が集まっている。
「転職を決めた」「夢を追う決意をした」読者の人生を動かす癒しの物語
本作の編集担当である、株式会社文藝春秋 文春文庫部の浅井愛は、本作の成り立ちについてこう語る。
「桜田千尋さんがWEBで公開していた、架空のカフェ・満月珈琲店のメニューイラストがすべての始まりです。真夜中だけ営業しているカフェで、夢のようなスイーツやメニューが提供される……そのイラストがあまりに綺麗で、『見ているだけで癒される!』とネットですごく話題になったんです」
そのイラストに魅了された一人が、ベストセラー作家の望月麻衣だった。桜田のイラストに強いインスピレーションを受けたことから、桜田が出店する即売会へ足を運び、自らコラボレーションを持ち掛けたのだという。
望月が紡ぐ物語には、過去から抜け出せないシナリオライターや、自分にも他人にも厳しいテレビ制作会社のディレクターなど、さまざまな悩みを抱える人々が登場する。彼らの心を猫たちが占星術を通じて解きほぐし、そっと背中を押していく。そうした物語が、“自分の人生を動かすきっかけ”になった読者も多いのだと、浅井は話す。
「サイン会やイベントで読者の方とお話しする機会が多いのですが、『満月珈琲店を読んで転職を決めた』『資格の勉強を始めた』なんていう方も。先日は、『この本を読んで自分の夢を追いかけようと決意して、今はイタリアでバリスタとして働いています』という女性が来てくださって、感激しました。物語や作中の言葉を通して、人生を動かすきっかけを得たり、自分を見つめ直す方も多いのかもしれません」

その魅力がぎゅっと詰まっているのが、10月に刊行された『満月珈琲店の星詠み特装版 人生がきらめく魔法の言葉』。既刊の名シーンや名言、イラストが三位一体となったフルカラー特装版だ。本書は文藝春秋の想定以上の売れ行きで、発売当日に初版と同部数の重版が決まったほどだと浅井は明かす。
「この名言集は、『絶対に素敵な本にしたい!』と思い、文庫本サイズなのにハードカバーという装丁にこだわりました。その分価格が上がってしまったので正直不安はあったんですが、読者の方からは、むしろ小さい方が可愛いし、お守りとして持ち運べて嬉しいという声もいただいています。本は安いから買ってもらえるんじゃない、好きだと思ってもらえたら買ってもらえるんだと改めて教えてもらいました。書店訪問で聞いた話では、普段は小説を読まないけど、この名言集から小説の方も読み始めたという方も多いようで、作ってよかったと思っています」
また、待望のコミカライズ第1巻(漫画・まさきりょう、10月刊行)では、漫画ならではのスイーツや星詠みの鮮やかな表現が話題に。さらに、10月に刊行された最新刊の8巻『満月珈琲店の星詠み ~星猫たちのクリスマス・キャロル~』は、「猫たちにフォーカスした物語が読みたい」という読者の声に応えた一冊。登場人物が緩やかにつながりながらも、どの巻からでも楽しめるシリーズの中で、入門編にもふさわしい作品となっている。

書店ポップアップが物語の入り口に
イラストから小説、コミカライズへと広がり、さまざまな形で作品の世界観を楽しめるようになった『満月珈琲店の星詠み』。そんな作品の世界観をさらに広げたのが、文藝春秋と丸善ジュンク堂がタッグを組んで仕掛けたポップアップだ。その仕掛け人の一人が、ジュンク堂書店 池袋本店の文庫担当・西山有紀。西山は、満月珈琲店ポップアップを社内推薦した。その理由について、西山はこう語る。
「このシリーズは桜田さんの優しい絵と、望月さんの紡ぐ温かな物語というコンビネーションが絶妙で、それが具現化したグッズができたら喜ばれるだろうと思いました。ストーリーが感じられるグッズとでもいいましょうか。幸い満月珈琲店も、そこで出されるスイーツも、どちらも絵からイメージできますし、読者の方と同じ世界が楽しめるはずだと考えました」
西山のイチオシグッズは、「星詠みポストカードギフト」。1巻から7巻までのカバーイラストと、その巻に登場するイチオシメニュー、計2枚のポストカードがセットになったもので、ファンからの人気も高く、池袋本店では発売初日にほぼ完売したという。もう一つの注目グッズが、「星詠みスペシャルデー ステッカー」。満月珈琲店のレシートやメニューをモチーフにしたステッカーがセットになっている。
満月珈琲店を訪れた人々は、店に行ったこと自体は忘れてしまう。しかし、そこで決意したことや心に残った思いは消えない。そんな物語の設定を踏まえて生まれたのが、このレシートのステッカーだ。手に取れば、「もしかしたら、自分も満月珈琲店を訪れていたのかもしれない」と、物語の世界に入り込んだような気分を味わえる。
そのほかマグカップやティースプーン、珈琲ドリップバッグにレターセットなど、グッズはすべて、桜田とその妻・ひみつがアイデア出しからデザインまで担当していると浅井は語る。
「桜田さんご夫妻は、“自分だけの時間を慈しむ”というコンセプトのもとで、今回のためのグッズを考案してくれました。忙しいときや心が疲れたときこそ自分の時間を大切にしてほしい。そんな思いで作ってくれたので、どの商品にも心が弾むモチーフが施されていて、それが、好評につながったのではないかと思っています」。
ポップアップの効果もあってか、最新刊の8巻は、ジュンク堂書店池袋本店 文芸文庫の週刊ランキング(10月第2週目)で1位を獲得。特装版もポップアップの開始と同時に完売したという。西山は、その効果について「これまでほかの店舗で購入されていた方も、ポップアップを見たいという理由で池袋本店に足を運んでくださったのではないか」と話す。
一方、浅井は、発売初月の新刊販売数が、その他チェーンでも減少しなかったことに注目。ポップアップが新たな潜在読者との接点を生み出したことに、手応えを感じているようだ。
「丸善ジュンク堂グループ以外の書店チェーンの販売数を念入りに集計したところ、他店の販売数がまったく減ってなかったんですよ。これまでこのシリーズを売り続けてくれた全国の本屋さんに行く人が減って、ポップアップ開催店にだけ殺到するのでは意味がない。大事なのは、グッズやカフェ体験を通して作品世界に触れ、その中心にある本までたどり着いてくれる人が増えること。丸善ジュンク堂さんは今回、これまで作品を知らなかった潜在読者に対してたくさんの入口を作ってくれたのだと思っています」

そして、丸善ジュンク堂では、今後も書籍の販売にとどまらず、ポップアップなどの開催にも積極的に取り組んでいく方針だと西山は語る。
「どこの書店も、書籍だけでやっていくのは厳しいと言われていると思います。丸善ジュンク堂も、今回の満月珈琲店も含め、本の世界観をグッズにして、そこから読者を増やしたいという思いから、様々なポップアップを開催しています。ただ、小説の世界観をグッズにしたここまで大々的なポップアップは、満月珈琲店が初めてだと思います。イラストが、作品の世界観の重要なパーツになっている特殊な作品だからこそできたことです。桜田さんの素晴らしいイラストが、今回のポップアップの成功に繋がったのだと感じています」。
11月6日からは、最後の1店舗として東京・虎ノ門ヒルズのmagmabooksでポップアップを開催。グッズ販売に加え、パネル・複製原画展示、サイン会も行われる。
物語を通して、迷える人々に寄り添ってくれる『満月珈琲店の星詠み』。その魅力は小説にとどまらず、作品の世界観に触れられるグッズやポップアップへと広がっている。自分だけの時間を大切にしながら、心をふっと軽くしてくれる癒しの物語に触れてみてはいかがだろうか。
■ポップアップ情報
満月珈琲店の星詠み POP UP STORE
詳細:https://www.maruzenjunkudo.co.jp/pages/full-moon-coffee(グッズのオンライン販売もあり)
会場:虎ノ門ヒルズ「magmabooks」
開催期間:2026年11月6日(金)~11月23日(月・祝)
開催内容:グッズ販売、パネル・複製原画展示、サイン会
住所:東京都港区虎ノ門1-22-1 グラスロック2・3階
営業時間:11:00~21:00/日・祝11:00〜20:00
https://www.toranomonhills.com/gourmet_shops/6835.html



























