本の装画を描くのに大切なポイントは? イラストレーター・ゆうこが語る小説『じんわり深夜の洋食店』装画制作の裏側
(水縞しま/著、ことのは文庫)
本の「顔」であり、作品の世界観や第一印象を決める装画。本好きであれば、装画に惹かれて本を手にしたことが一度はあるだろう。そんな本と読者の架け橋となる装画の仕事を中心に活動しているのが、大阪在住のイラストレーター、ゆうこ。やわらかなライティングと色彩、そしてなんとも美味しそうなフードの描写が特徴で、これまでごはんもの小説から本格ミステリまで、実にさまざまなジャンルの書籍の装画・挿画を手掛けてきている人物だ。
そんな彼女が装画を担当した『じんわり深夜の洋食店 お見合い夫婦のおしながき』(水縞しま/著、ことのは文庫)が2月20日刊行されたのを記念してインタビューを実施。イラストレーターになったきっかけにはじまり、どのようにして装画を制作しているのか、そして『じんわり深夜の洋食店』の装画について、なかなか聞けない創作の裏側について話を聞いた。
pixivへの投稿をきっかけにイラストレーターに
ーー絵を描くことが好きだと自認されたのはいつ頃でしたか?
ゆうこ:物心がついた頃から絵を描いたり工作をしたり、とにかく何かを作ることが好きでした。特に絵を描く時間が長くなってきたのは、中学生あたりからかなと記憶しています。
ーーいつ頃からイラストレーターという職業に興味をもたれたのでしょうか?
ゆうこ:高校から大学の間は油絵を学んでいたので、自分がイラストレーターになるとは全く考えていませんでした。また、アーティストを目指すほどファインアート(※)に熱があったわけでもなく、美大卒業後ろくに絵を描いていない時期がありました。そんなときにpixivが登場して、そこに絵を投稿しているうちにお仕事をいただくようになりました。まさか自分が装画・挿画のお仕事をいただけるようになるとは思っていなかったので、とても嬉しいです。
※芸術的価値を追求する活動・作品を指す。
ーー影響を受けたイラストレーターさんはいますか?
ゆうこ:一番刺激を受けていたのは、当時pixivに投稿されていた方々です。また、イラストレーターさんではありませんが、子供の頃からジブリのアニメが大好きでしたので、かなり影響を受けていると思います。
ーーゆうこ先生の作品を拝見すると、ワンシーンを切り取ったというよりも、ストーリーを感じさせる作品が多い印象を受けます。意図して作品の中に「物語性」を持たせているのでしょうか?
ゆうこ:特に物語性を持たせようと意図しているわけではないのですが、絵の中の人物のその時の気分であったり、なんとなくの世界観であったりは考えながら描いていますので、色々想像していただけたなら嬉しいです。
ーー時間帯や季節、天気によっての光の描き分けを見事にされている印象も作品から受けました。光の描き分けはもともと得意だったのでしょうか?
ゆうこ:全くもって得意意識はなく、技術面ではまだまだ拙い部分が多いという自覚があるので、常に四苦八苦しています。技法書を読んだりして学んでいます。
ーーちなみに一番お好きな光はどんな光ですか?
ゆうこ:光って色んな種類のものがあってどれもそれぞれ魅力的なので、一番を選ぶのがとても難しいです。最近見て良かったのは、雪の日に雲の隙間から太陽の光がうっすら差し込んで、雪景色に反射してキラキラしていたときです。
ーー描かれる食べものがどれもおいしそうというのも、ゆうこ先生の作品の魅力のひとつだと感じています。もともと食べものの絵を描くのはお好きだったのでしょうか?
ゆうこ:食べ物の絵は、昔はほとんど描いていなかったです。お仕事をいただくようになってから描く機会が増えていきました。ただ、食べることが大好きで、本やネットで行ったことのないお店を探して色々巡ることは昔から好きでした。ここ数年はGoogleマップに行ったことのある飲食店を全て記録しています。また、「使うときなさそう……」と思いつつ、可愛い食器を見かけるとつい買ってしまったり。そういう経験は、絵を描く上で活きているのかもしれません。
さまざまな制約の中で「最適解」の装画を導き出す
ーー現在は、装画・挿画などのお仕事を中心に活動されているそうですが、もともと本はお好きだったのでしょうか?
ゆうこ:正直なところ人生で一番読んでいる本は漫画なのですが、大人になってからは他の本も読むようになりました。図鑑や写真集を見るのも好きです。また、本屋さんという空間が子供の頃から大好きで、しょっちゅう通っていました。最近は街の小さな本屋さんが減ってしまって寂しいです。
ーー思い出に残っていたり、影響を受けたりした装画・装丁はあったりしますか?
ゆうこ:自分が携わっている装画・装丁とは全くジャンルが違うものになってしまいますが、思い出に残っているのは学生時代色々うまくいかなかったときに、教授からいただいた『これは本である』(柏原えつとむ/著、美術史評社)という、その本が本であるということをひたすら示しているアートブックです。真っ赤のシックな装丁で、本棚に立てた背表紙にもとても存在感があるので、ふと目に入ると色々と思い出します。
ーー装画・挿画を描くにあたって、どのようにしてイメージをふくらませて構図などを決められていますか? ご担当される作品は何度も読み込まれたりするのでしょうか?
ゆうこ:お仕事によってほとんど私にお任せだったり、デザイナーさんがディレクションしてくださったりと色々なケースがありますのでケースバイケースですが、打ち合わせ前と、絵を描く前に読むようにしています。表紙にしたとき映えそうなモチーフ、シチュエーション等、色々とメモを取りながら読みます。装画は趣味で自由に絵を描くのと違い、帯がかかったりタイトルスペースを空ける必要があったり、その本のターゲット層が設定されていたり、色々と制約があるので、その制約の中で一番良く見える「正解」を導き出していく感覚です。
ーー本や作品の第一印象を決める装画を描かれる際に大切にされていること、心がけていることは?
ゆうこ:最近はネットで購入される方がとても多いと思いますので、自分の絵を画面上で思い切り縮小して、ぱっと見のサムネイルで見ても良い感じに見えるかどうか、確認しながら描いています。遠目に見ても綺麗に見えるように、たくさん描き込むことよりは、大まかな色の構成等を大切にしています。
ーー物語を書かれた作家さんや読者の方などからもらった装画への感想で、うれしかった言葉をあげると何になりますか?
ゆうこ:作家さんとのやり取りは編集さんが間に入ってくださることがほとんどですが、作家さんが喜んでくださっている、気に入ってくださっている、と伝えていただいた時がシンプルにとても嬉しく、ほっとします。また、自身ではあまり人物に得意意識がなかったので、作家さんからも読者の方からも、女の子が可愛いと言ってもらえた時は嬉しかったです。
ーー今後、手掛けてみたい装画・挿画をあげるとするなら、どんな作品のものになりますか?
ゆうこ:これまで手がけたほとんどが現代の日本か欧米、もしくは江戸時代辺りの日本が舞台となっている作品なので、それ以外の時代、国、世界が舞台となった作品を手がけてみたいです。
横長の構図だからこそ描けた、作品の世界観に寄り添った装画
ーー装画を手掛けられた『じんわり深夜の洋食店』についてもお話をお伺いさせてください。お見合い結婚した夫婦が営む、眠れない人たちが集まる深夜にだけ営業する洋食店「モント・リヒト」を舞台とした作品ですが、読まれたときどんな感想を抱かれましたか?
ゆうこ:深夜営業の洋食店というのが良いですね。仕事で疲れてくたくたの夜道で、ぽわっと灯るお店の光や、美味しいお料理に癒される自分を想像して、「モント・リヒト」が現実にもあれば良いな、と強く思いました。お見合い結婚から始まったふたりが、少しずつ距離を縮めていく過程もとてもほっこりしますし、色々な思いを抱えて来店するお客さんたちのストーリーも、タイトル通り、じんわり心に沁みます。
ーー読みながら、どんな装画のアイデアが浮かんできましたか?
ゆうこ:編集さんともお打ち合わせして、しっかり絵にしたいと考えたのは、特定のアイテムというよりは、「深夜の洋食店」の空気感でした。お話の中には細かくは描かれていませんが、お店の内装やインテリアの方向性等は、事前に作家の水縞しま先生と担当編集さんにモデルとなったお店やイメージに近いお店を参考に伺い、検討しました。
わいわい賑やかに過ごすというよりは、落ち着いた時間の流れるお店が舞台ですので、静かで優しい雰囲気が出るよう心掛けました。あと、実際の装丁ではタイトルで隠れてしまいましたが、夜営業の洋食店であるということをわかりやすくしたいというリクエストがありましたので、「モント・リヒト=月光」という店名にちなんで、月のモチーフを入れました。
ーー表紙と裏表紙がつながっている「ことのは文庫」ならではの装画の構図は、どのように活かされましたか?
ゆうこ:店内にある書架は訪れたお客さんたちからのプレゼントが置かれた、とても印象的な空間なので、ぜひ描きたいなと考えました。ただ、理人はカウンターに立っている方が良いので、表紙にカウンターから書架まで詰め込むと、情報量が増えて、ゆったり、落ち着いた雰囲気を出すことは難しかったと思います。裏表紙まで描けたからこそ、書架まで描くことができました。
ーー装画では、主人公である史緒と理人の姿も描かれています。文字情報でしかないキャラクターをイラストにするにあたり、イメージはどのように固めていきましたか? こだわったポイントは何かありますか?
ゆうこ:夫婦で経営しているお店なので、史緒と理人にどこかリンクする要素が欲しいなと思いまして、史緒のエプロンの色と理人のスカーフの色を合わせることにしました。落ち着いたお店ではありますが、敷居の高いお店ではないので、史緒は清潔感がありつつ、ラフで飾らない服装にしました。理人は史緒を見守っているような視線にしたところがこだわりポイントです。
ーー作品を読み終わった後に装画を見たとき、表紙が作品世界かつ「モント・リヒト」への入り口、裏表紙がお客さんからのプレゼントが揃って完成した「モント・リヒト」からの出口のようにも感じられたのですが、これは描くうえで意図されていたことですか?
ゆうこ:スペース的な問題等を考慮して表紙と裏表紙に何を描くか決めており、そこまで深い意図は考えていませんでした。そのように感じていただき、私自身も嬉しい発見でした。
ーー読者やファンの方へのメッセージをお願いします。
ゆうこ:「モント・リヒト」はとっても素敵なお店で、読んだらきっと行きたくてたまらなくなると思います。そんな中で装画が、「この料理おいしそうだったな」「史緒ちゃんとお話してみたいな」等、物語の余韻を味わうきっかけとなればうれしいです。