『変な地図』雨穴、なぜ世界的ミリオンセラー作家に? 企画総合プロデューサーに聞く、マルチクリエイターとしての才能
10月末に刊行された『変な地図』(双葉社)が、発売から約1か月で計70万部以上の大ヒットを記録している覆面ミステリー作家・雨穴。Billboardにより新たに創設された「Billboard JAPAN Book Charts」の歴史に残る「初週総合第1位」に輝き16日には授賞式が行われた。雨穴本人が「変なシリーズ最高の集大成」と語る新作が快進撃をつづける一方で、その人気はもはや国内だけにとどまらない。シリーズ2作目『変な絵』(双葉社)は36の国と地域で翻訳出版され(今後の予定ふくむ)、すでに計200万部を突破する“世界的ミリオンセラー作品”となっている。(メイン画像、左からアメリカ版、ブラジル版、韓国版の『変な絵』)
『変な絵』はフランスの大手書店チェーンのFNACによって「今月の本(2025年2月)」に選出、ドイツでは「5月の最優秀犯罪小説」の栄誉に輝き、イギリスでも大手書店チェーンWaterstonesの「年間ベストブック大賞」の最終候補にノミネートされるなど高い評価を得ている。世界のミステリー作家からも、「黄金時代の推理小説のようなひねりとフェアプレイのスタイルに、素晴らしく斬新なイラストの使い方がミックスされている」(G.T.カーバー氏)、「あまりに魅惑的で一日で読んでしまった。あまりの不穏さに一晩中考えた」(ジャニス・ハレット氏)、「こんな作品は読んだことがない」(アレックス・パヴェシ氏)など絶賛のコメントが次々と寄せられ、画期的な作品世界に対する評価はますます高まるばかりだ。
なぜ、「雨穴作品」はここまで世界中の人々を惹きつけるのか? 『変な絵』『変な地図』の企画総合プロデューサーである渡辺拓滋氏(双葉社編集局次長統括編集長)に世界的な“雨穴人気”の経緯と要因について聞いた。
「雨穴先生作品の海外人気は、アジアからまず火がつきました。『変な絵』はまずはアジアの韓国で売れて、タイや台湾でもすぐにヒットを記録・重版となり、その後ヨーロッパや北米にまで人気が広がりました。36カ国と地域・200万部以上という数字は、国数と地域では村上春樹さんの『ノルウェイの森』に並ぶほどの記録的なものです。新作の『変な地図』も発売約1か月で70万部を突破し驚異的な売り上げで、おそらく日本で今年後半一番売れた本になるのではないかと思っています。海外の反応の点でも発売前の時点で世界7カ国から翻訳のオファーをいただくなど異例づくしでした。刊行後も日本だけでなく、海外メディアからも多数お問い合わせをいただくなど大きな反響をいただいております。
雨穴先生作品の海外での世界的ミリオンセラーは、雨穴先生が『変な絵』で世界的に見ても他にない"スケッチミステリー"という作風を新たに確立されたことが、普段、本を読まない子供から大人までが"文章を読み"ながら同時に"絵を見て"謎を解くという"新小説体験"を楽しめ、世界中の多くの皆様方にお読みいただけた理由ではないかと考えております。
同じく小説の担当をさせていただいております、日本が誇る世界的なアーティストであるYOASOBIさんとも世界へのヒットの広がり方は少し似ているところがあるのではないかと思っています。YOASOBIさんはインドネシアでのヒットをきっかけに、他のアジア圏、そして北米へ世界的な進出をされました。世界的にヒットする日本のコンテンツはまずはアジア圏でヒットし、北米やヨーロッパに広がってゆくことにつながるのではないかと思っています」
雨穴、YOASOBIという小説家とアーティストと全く違うジャンルで世界で活躍する二組を、渡辺氏が出版プロデュースしているのも面白い話だ。とはいえ、言葉が通じなくても楽しめる音楽とはちがい、どうしても言語の壁が立ちはだかりがちな小説がこれほどの短期間で海外に受け入れられるのはさらにハードルが高いことに思える。それはどうして可能になったのか。
「YouTubeが入口になった部分も一つの要因ではないかと個人的には思っています。雨穴先生の作品は小説につながるご自身が作成された動画を“見てから小説を楽しむ”あるいは小説を“読んでから動画を楽しむ”という「YouTube」×「小説」という今までになかった新しいメディアミックスを読者に提供しています。『変な絵』や新作『変な地図』では、本編の “謎解き”ヒントとなるようにYouTubeで『第1章』を動画で出すなど、日本だけではなく世界中の多くの方々に没入感を楽しんでいただいております。
『変な地図』も、じっさい大人や読書好きだけでなく、子どもや若者にもとても人気があります。“親子でゾクゾクしながら一緒に読める今年一番の本です”、“主人公のように変な旅行に実際に出かけた気分になれます”といった声も有難いことにたくさんいただいております。
さらに雨穴先生は、世界的な小説家であるだけでなく、同じく世界的に見ても他にはいない天才マルチクリエイターだと思っております。『変な絵』には約100枚、『変な地図』には“特大考察マップ”と200枚以上のイラストや地図が入っており、それもすべて雨穴先生ご自身が作られたものとなります。雨穴先生は音楽もご自分ですべて制作することができますので『変な絵』では後章アナザーストーリーとして『a Mother's Nocturne』という音楽も作っていただきました。その歌が本編ともつながっていて小説を読んだあとにアナザーストーリーとして楽しんでもらえる、「小説」×「音楽」のかたちにもなっております。『変な地図』でも、雨穴先生ご本人による小説未公開シーンの入った40分の「朗読動画」(購入特典)が特典としてついており、作品にさらなる考察要素をもたらす仕掛けになっています。
雨穴先生は「小説」/「イラスト・地図・図版」/「動画」/「音楽」という4つのコンテンツを作ることができて、そのすべてにおいてとてつもなく高い作品性を作り出すことができる。そのうえで、そのなかのどれとどれをどう組み合わせて掛け算するかというメディアミックスを作品ごとにご自身でプロデュースすることもできる。
今回、Billboard JAPAN 様とご一緒に、世界初となる『Book Charts授賞式』を私が企画プロデュースさせていただきましたが、今回の授賞式の様子が世界にも広がりさらに注目が集まるでしょうし、雨穴先生は100年に一人の天才となりますので、日本の作家として世界でもNO.1になることは間違いないと心から思っております」
大谷翔平の2刀流ならぬ“4刀流“を自由自在に使いこなして世界を「変なシリーズ」で魅了する雨穴。彼の活躍をきっかけに、新しい小説づくりが活性化し、日本のコンテンツへの注目も世界でさらに高まることはまちがいない。そんな才能が日本から生まれたことを喜びつつ、“新たな読書体験”のできる新作『変な地図』を存分に楽しもう。
■書誌情報
『変な地図』
著者:雨穴
価格:1,760円
発売日:10月31日
出版社:双葉社