『ゴールデンカムイ』鶴見中尉が謎解き探偵に!? ミステリファンも納得のスピンオフ小説がヒット

 以前このコーナーで『都市伝説解体センター 断篇集』(集英社)を取り上げた際(『都市伝説解体センター』がオリコン文芸ランキング1位に! ますます裾野広がるホラーブーム)、執筆者のなかに円居挽、日部星花というミステリ作家が参加していることについて触れた。「都市伝説解体センター」はミステリーアドベンチャーゲームであるが、ミステリ作家が漫画・ゲーム・アニメなどのノベライズを手掛ける例は珍しいものではない。先にあげた円居挽はゲーム「逆転裁判」や漫画「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」などのノベライズ企画にこれまでも複数関わっている作家である。

 2025年10月第2週のオリコン文芸書ランキングでは、そうしたミステリ作家が手掛けたノベライズ作品の注目作がランクインする結果となった。『ゴールデンカムイ 鶴見篤四郎の宿願』(原作・イラスト:野田サトル、小説:伊吹亜門、集英社)である。(なおランキングでは第1位にアニメBlue-ray同梱版、第3位に通常版がランクインしている)

 『ゴールデンカムイ』は野田サトルが2014年から2022年にかけて集英社の『ヤングジャンプ』誌上で連載していた漫画で、日露戦争終結直後の北海道を舞台にアイヌが秘蔵していたという金塊を巡る壮絶な争奪戦を描いた作品だ。

 今回の『鶴見篤四郎の宿願』は『ゴールデンカムイ』にとって初の公式スピンオフノベライズ作品になる。鶴見篤四郎とは同作に登場する敵役で、日露戦争では第七師団を率いた名うての中尉でありながら、ある野望のために秘蔵された金塊を狙っている人物だ。敵役とは書いたが鶴見の捉えどころの無い人物造形は読者を魅了し、作品内屈指の人気を誇っている。

 『鶴見篤四郎の宿願』が面白いのは、その鶴見を中心に据えた謎解きミステリの連作短編集に仕立てたところだ。ノベライズを担当した伊吹亜門は『刀と傘 明治京洛推理帖』(ミステリ・フロンティア)で第19回本格ミステリ大賞小説部門を受賞した謎解きミステリ作家である。『刀と傘』や『幻月と探偵』(角川文庫)などの作品を読めば分かる通り、伊吹は時代背景を謎解きとしての構成に織り込みながら、その時代を舞台に選んだからこそ書き得る趣向を披露するのが得意だ。『鶴見篤四郎の宿願』は日露戦争の戦場が舞台となっており、そこで起こる不可解な出来事について鶴見と第七師団は謎解きを行うのだ。例えば第二話「白い日本兵」では銃弾を撃っても死なない白い装束の日本兵が現れたという噂が戦場に流れ、第七師団の菊田特務曹長がその謎に対峙する。オカルトめいた謎が描かれ、それが極めてシンプルな論理で解かれるのだが、ここには戦場という特殊な状況でしか成り立たないアイディアが込められている。原作漫画における登場人物の魅力を活かしたエピソードもあり、第四話「時にはやさしく見ないふり」では冷徹な射撃の名手・尾形百之助のキャラクターに合わせたような乾いた活劇場面の描写が盛り込まれている。本格謎解きミステリファンも原作ファンも双方満足させようという工夫に満ちたスピンオフ短編集だ。

 ちなみに現在『ヤングジャンプ』では小説『地雷グリコ』(KADOKAWA)で各賞を総なめにしたミステリ作家の青崎有吾が「ガス灯野良犬探偵団」(漫画:松原利光)という作品の原作を担当している。同誌におけるミステリ作家と漫画作品の関りは今後も注目していきたい。

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