お人よしのおまわりさん&もちもちボディ猫の不思議な物語ーー人気シリーズ「おまわりさんと招き猫」最新5巻のキーは“夢”?
全体は10編プラス番外編で構成。「夢」とうつつの幹から伸びる枝葉のエピソードもそれぞれに心に残る。少しだけピックアップしたい。
小槇くんが「泰然自若な大人」だと思っていた笹倉さんが、初めて弱点を見せるエピソードの「雨のプリンセス」。実は笹倉さん、カエルだけは大の苦手なのだとか。ある雨の勤務日、かつぶし交番に「カエルは大好きだけれど、人とはうまく話せない」と話す黄色い雨カッパを着た男性が現れる。“カエル”と聞いて、いっとき我を見失う笹倉さんだったが、「自分は人とズレている」と肩を落とす男性に、ある言葉を投げかける。いわゆる常識的な大人やおまわりさんの言葉ではなく、笹倉さんがこの男性、つまりはそのときそのとき目の前にいる相手と、ちゃんと向き合える人だからこそ、生まれる言葉になっていて「さすが笹倉さん」と唸らされる。また、おもちさんが「小槇くん。朗報ですにゃ」と語って聞かせる、このエピソードのオチもまた、なんともいい塩梅の仕上がりだ。
二年前に漁師の夫・ノブさんを亡くした妻の純子さんが、二人三脚で営んできた磯料理店をたたむことを決意する「うちかび」も、しっとりと沁み入る小品。“うちかび”とは、打紙とも書き、沖縄県で、墓参りや年忌などの先祖供養、旧盆の最終日などに使用される冥銭の一種のこと。ノブさんのかつての漁師仲間から、純子さんを気にかけて欲しいと頼まれた小槇くんとおもちさん。あるとき純子さんが「薄情な妻でごめんなさい」「たった二年でもう平気、なんて」と口にする。そんな彼女におもちさんは「お別れの受け入れ方は、人それぞれ」「『いつもいる場所にもういない』ことに、毎日少しずつ慣れていく。それも、受け入れ方のひとつですにゃ」と伝える。
「距離感が心地よい」かつぶし町は、つかず離れずの距離を保っているだけではなく、人と人、人と「そういうもの」、それらの間を、向き合うからこそ生まれる気持ちが、ちゃんと行き交っている。さらに、笹倉さんの言葉にしろ、おもちさんの言葉にしろ、発せられる言葉がシンプルだからこそ、その広がりや深さが、個々の読者に委ねられる。
そういうものを受け入れつつ、境界線を保つことも大切
一方、夢に浸食されつつあった町はどうなったのか。夢うつつとは、その語感だけでも、浮遊感のある、その間をずっと彷徨っていたくなるような言葉だが、夢に浸食されすぎるのは危険だ。かつぶし町の人々は「あやかし」を「あやかし」として、「そういうもの」を「そういうもの」として受け入れているが、境界線がなし崩しなわけではない。
「そういうもの」が「そういうもの」として存在する町だからこそ、おもちさんや、小槇くんのようなおまわりさんが大切なのかもしれない。そんなことも、より感じた白黒のバクとなぞの旅人来訪の第5巻。私たち自身、不思議な体験を日ごろより意識したくなる盆を挟む夏に、本作を読めるのはさらに楽しい。住民が夢を共有する物語ということもあり、普段以上に、かつぶし町全体をイメージすることもできる。また、キャラクターとしてもおもちさんに負けず劣らず愛らしいバクが何者なのか、そこにも実はある人が知らずと関係していたのだが、それはぜひ本を開き、かつぶし町を訪ねて確認してほしい。