【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー
『竜の医師団』『バチカン奇跡調査官』『続・金星特急』……人気シリーズの新作並ぶ、注目のライト文芸5選
ゆきた志旗『亡き王女のオペラシオン1』(集英社オレンジ文庫)
eコバルト文庫で電子出版されていたヒストリカル小説が、紙の本として三ヶ月連続で刊行。時は18世紀、フランス革命下のパリ。王妃マリー・アントワネットには知られざるもう一人の娘がいたが、謎めいた占い師の言葉により彼女は家族から引き離されて育つ。物語は数奇な運命のもとに生まれたソフィーを主人公に、激動の時代を生き延びる少女の姿をいきいきと描き出す。
叔母のアンに育てられているソフィーは、タンプル塔の暖炉係として働いていた。ソフィーは幽閉された家族の子どもたちと交流をもつが、やがて彼らは革命派に捕らわれた国王一家であると気づく。ソフィーは非人道的な扱いを受けるルイ・シャルルを救い出そうとするが失敗し、混乱の最中で自らの出生の秘密を知る。一人ぼっちになったソフィーは路上で厳しい暮らしをおくりながら謎の占い師を探すうちに、革命前は司祭だったという男ピトゥに拾われ、彼と暮らす中で歌への興味が目覚めていくが……。
ヒストリカル好きの心に刺さる歴史要素に、オペラという音楽要素を掛け合わせた本作は、キャラクター小説としても楽しめて個性豊かなキャラが物語を彩る。とりわけ音楽と関係の深いとあるキャラクターはおっと思わせる設定で興味をそそられた。激動の時代の中で舞台女優を目指すソフィーの成長をフランス史ともに描く、心躍る歴史ファンタジーである。
嬉野君『続・金星特急 竜血の娘5』(ウィングス文庫)
謎の列車「金星特急」に乗り込んだ者たちの冒険を描くSFファンタジー『金星特急』。『続・金星特急』は七百年後の世界の舞台に、『金星特急』主役・錆丸の娘の桜を主人公に据えた物語だ。
絶海の孤島で育てられた桜は、錆丸の旅の仲間である砂鉄と義兄弟の三月を守護者に父を捜す旅に出る。道中で砂鉄の恋人のユースタスや三月の相棒・夏草とも合流するが、人の心を操る「蒼眼」を無効化する力をもつ桜は狙われ、仲間と引き離されてしまう。ロンドンで危機に陥った桜は、守護者を名乗るカナートとユナートという謎の兄弟に助けられるが……。シリーズ第5弾はロンドンで「蒼眼の宝」を捜す桜と、蒼眼の追跡を逃れながら彼女と合流しようと北欧経由でロンドンに向かう砂鉄たちそれぞれの奮闘を描く。
人口が激減したポストアポカリプスな世界が魅力の『続・金星特急』は、前シリーズに引き続き世界各国を駆け巡る旅要素が楽しめる。科学文明が衰退しきった世界の中で、時折顔を出す古い時代のテクノロジーもSF好きの心をくすぐらずにはいられない。桜が出会った謎の兄弟の正体が明かされるシーンは、『金星特急』シリーズ読者ならば興奮間違いなしの場面だ。再び砂鉄の記憶を失ってしまったユースタスと、彼女だけを一途に愛する不器用な男の、切ないラブロマンスも見逃せない。壮大なスケールで展開する魅惑の物語をぜひこの機会に手に取ってほしい。