謎解きの鍵は京都の文化? ことのは文庫の人気シリーズ『謎解き京都のエフェメラル』最新刊レビュー

物語のキーになる京都の文化

 亡くした人の想いを大事に抱えて、この先の未来を生きていきたい。その想いの強さが同じであるからこそ、娘はどうしても、依頼人のした「あること」が許せない。依頼人が失ってしまったものは、夫とレシピだけではないのである。

 その穴を、壱弥は謎解きとともに埋めていく。亡くした人は生き返らないし、後悔しても取り返しのつかないことはある。それでも、再び手に入るのならば、モノでも記憶でも取り戻して、依頼人のもとに届ける。これから先の未来を、できるだけ後悔がないよう、生きていけるように。誰よりも強く、壱弥がそれを願うのは、自身がたくさんの「取り返しのつかなさ」を経験し、いまだ埋めることのできない心の穴を抱き続けているからだ。自分と同じもどかしさを、さみしさを、味わってほしくない。だから壱弥は「ほぼ100パーセント」の依頼完遂率を達成しているのではないだろうか。優秀な探偵だから、という以上に、完遂するまで、依頼人の心の穴が埋まるまで、決して託された依頼を放り投げたりしないから。

 そんな壱弥に寄り添いたいと、ナラは次第に強く想うようになっていく。大切なものを失うことの苦しさを、どんなに手を尽くしても取り戻せないことがあるという現実を、壱弥の隣で目の当たりにしていくからこそ、壱弥とともに過ごせる日々を、確たるものにしたいと願う。自覚した彼女の恋心が、どのように壱弥を揺さぶっていくのか……。なかなか進展しないじれったさもまた、最新刊の読みどころの一つ。

 京都を舞台に描かれる本作では、和歌や着物の柄などさまざまに受け継がれてきた文化が謎解きのヒントになることも多い。とくに雪中絵画をめぐる第4巻の2話に触れると、登場する街並みをたどって冬の京都を歩いてみたくなるけれど、いちばんしみじみするのは、描かれる文化のなかに「過去」を感じるときだ。街並みにも、私たちの暮らしにも、あたりまえだが誰かの過去、つまり生きてきた足跡と想いが潜んでいる。たくさんの失われたもののなかに、私たちの「今」があるのだと思うと、よりいっそう本作で描かれる一つひとつの依頼が、愛おしいものに感じられるのである。

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