謎解きの鍵は京都の文化? ことのは文庫の人気シリーズ『謎解き京都のエフェメラル』最新刊レビュー
誰にだってひとつは、見つけ出してほしい失くしものがあるだろう。たとえば、約束を果たさないまま会えなくなってしまった大切な人、かつて心を打たれた名前も場所も忘れてしまった美しい情景、もう二度と食べることのかなわない家族の味。そんな、他人が見つけ出すのは不可能と思われる記憶をとりもどさせてくれるのが、『謎解き京都のエフェメラル』シリーズの春瀬壱弥。「あなたの失くしたもの、見つけます」と事務所に看板を掲げ、依頼の完遂率はほぼ100パーセントを誇る探偵である。
生活力は皆無でも謎解きはお手のもの
壱弥の事務所は、神宮道西入ル――平安神宮に続く道を折れた路地にある。本人いわく「仕事がないのではなく、仕事が早い」ためにだいたい暇そうで、生活力が皆無のために、しょっちゅう散乱した本の海に行き倒れている。放っておけば、珈琲と和菓子しか口にしない、大の偏食家。本作の語り手であり、弁護士をめざす大学生の高槻ナラが世話を焼かなければ、とっくに病院送りになっていそうな乱れた生活を送る32歳。ただし、前述のとおり探偵としては優秀なようで、ナラは同級生の失踪を彼に依頼し、複雑に絡まった糸を華麗にほどいて解決していく姿をまのあたりにしたことで、その人となりや来し方に興味を惹かれるようになる。
壱弥にはそもそも、謎が多い。ナラの祖父がかまえる法律事務所で働いていた彼は、祖父が亡くなったあとに事務所を引き継ぎ、探偵事務所に変えてしまった。事務所で働き始めるまでは、違う仕事に就いていたらしいと聞いたことはあるけれど、詳細は不明。他人の揉めごとに積極的に介入するタイプにも見えないのに、ひとたび依頼を引き受ければ、その失くしものにかかわる人の想いを丁寧にすくいあげて、依頼者の心を軽やかにしてくれる。
いったいなぜ、彼は失くしもの専門の探偵になったのか。ナラの疑問に、壱弥は答える。〈俺は今まで色んなものを失ってきたから、大切なものを取り戻したいって思う気持ちは理解できる〉と。その言葉にこめられた意味は、シリーズを重ね、彼の過去が明かされるにつれて、重たく響きはじめる。
壱弥は、知っているのだ。失くしたものをとりもどしたいと願うのは、ただ未練に引かれているだけでなく、今、これからを生きていくために必要な、清算の儀式でもあるのだと。たとえばシリーズ最新作の第4巻『神宮道西入ル 謎解き京都のエフェメラル 冬夜に冴ゆる心星』では、パティシエだった亡き夫が初めて自分のためにつくってくれたチョコレートケーキのレシピを探してほしい、という依頼が持ち込まれる。レシピをすべて託されたはずの娘が紛失してしまったというのだが、その裏側を調査する過程で浮かびあがってくるのは、依頼人と娘のあいだに流れる、わだかまりだ。