芸人で絵本作家・たなかひかる 斬新な発想はどこから生まれる? 新作『ももたろう』の型破りなアプローチ
■文字が物体として見えるように
ーー本作では文字をキャラクターのように描いていますが、文字というものについて、どのように考えていますか。
たなか:文字も形だしなと思っていて。僕らは文字として認識して、意味を受け取っていますよね。でもそれを壊すことで、物体として見るようにしたかった。たとえば、電車のなかで周りの人の会話に耳を澄ますと、普通はその意味を受け取りますよね。でも、少しだけピントをずらしてみると、それがただの音として聞こえてくる瞬間がある。それと同じように、文字を意味ではなく形として捉えて描きたかったんです。表紙にある「ももたろう」というタイトルを見ると、最初は文字として意味を認識する。でもページをめくっているうちに、文字自体が意味を持たなくなって、ただの立体として見えてくるようになったらいいなと思いました。
ーー途中に登場する「シンデレラ」「かぐやひめ」など、暗いトーンの色で触手のようなものが生えていたりして、ちょっと気持ち悪いような姿形になっていました。そうした不気味なものを描くのはなぜですか。
たなか:ただ単にかわいらしいものだけを描きたくないという思いがあるんです。でも完全に不気味というわけではなく、少しだけ不気味さを混ぜておきたい。香水を調合するときには、臭い匂いをほんの少し混ぜておくものなんだそうです。それと同じように、絵本にもちょっとだけ毒をたらしておきたいという気持ちがあります。
ーーたなかさんはどういう作品を面白いと感じますか。
たなか:なんかわからんけど面白いとか、なんかわからんけど心地いいとか、そういうものですね。もちろん、主人公とヒロインが出会ってうまくいくみたいな作品も見ますけど。それよりも、なんかわからんけど見てしまうという、そこに意味がないようなものに惹かれる傾向が強いですね。
ーー意味がないものにこだわるのはなぜでしょうか。現代社会には意味があるものであふれているような気もします。
たなか:ちょっと中二病的な考え方になるかもしれないんですけど、結局、僕らが意味があると思っているものって、実際には何の意味もないと思ってるんです。僕が生きている意味もなければ、生まれてきた意味もない。父ちゃんと母ちゃんが出会った結果として、僕が生まれただけです。もっと遡れば、地球や宇宙というものだって、たまたま誕生したんだと思っています。
人生は意味もなく発生しては消えていく。人はその間に「こういうことを作るのが好きだから生きる」「好きな人ができたからそのために生きる」などと、後付けで自分なりの意味を作り出します。でもそもそも、最初は何の意味もないし、それでいいんじゃないかと思っていて。だから作品について「意味がわからない」と言われたときに、僕は「逆に意味がわかるものなんてあるのか」「世の中の何かひとつでも意味がどのようにあるかを説明してごらんなさい」って思ってしまうんですよ(笑)。でもこれはネガティブな意味じゃなくて。全部意味がないからこそ、嫌いな人とかには極力関わらず、なるべく楽しく生きられたらと思っています。
ーーたなかさんの絵本を読んでいると、意味を追うというのではなく、五感で何かを感じることができると思いました。
たなか:うちは両親が小学校の先生だったので、幼少期の頃から絵本がたくさんありました。いろんな絵本を読んでいましたが、大人になってから覚えている絵本って、いいお話とかじゃなくて、なんか変な絵本だったりするんです。絵本のなかに気持ち悪い部分があったなとか、今でもその感触を覚えている。だから、自分の絵本でもそういう印象を与えられたらいいなと思っています。今の子どもたちが親になって、子どもに絵本を買ってあげるようなときに「そういえばあの絵本、気色悪かったな」みたいな感じで、心に残っていたら嬉しいですけどね。
ーー最後に本書を読む読者に向けて、一言メッセージをお願いします。
たなか:ほんまに帯に書いてある通り「はじめて読む桃太郎として与えないで下さい!」ですね。あとは「先に言うとくけど、思ってるやつとは違うで」ですかね(笑)。