『涼宮ハルヒの劇場』はもはやハードSF? 2000年代の名作シリーズ、最新刊でも色褪せない魅力

 ともあれこの五人が、さまざまな世界で暴れ回る。いきなりファンタジーRPGの世界で王様から、魔王城に監禁されている王子と姫を救出し、魔王を倒すよう頼まれた勇者ハルヒのパーティー。とはいえハルヒは、いつものように唯我独尊で猪突猛進だ。王様や森の賢者のいうことなど聞かず、好き放題に突っ走る。そのハチャメチャぶりが愉快痛快。しかし、きちんとミッションをコンプリートしなかったため、気がつけばスペースオペラの世界に飛ばされる。王様や森の賢者が、似たような別人として登場。今度は、宇宙海賊に連れ去られたという王子と姫を救出するよう頼まれる。

 もちろんこちらの頼みも、ミッション・コンプリートならず。ということで、西部劇の世界に飛ばされたと思ったら、意外な事実を経て、次々と新たな世界に行くことになる。まるで、おもちゃ箱をひっくり返したような展開が、楽しくてたまらないのだ。

 一方で、古泉・長門・キョンの三人が、この世界は何なのかと検討するあたりから、SF味が増していく。そして、世界から脱出しようとする「エスケープ篇」は、もはやハードSFだ。理解できるかどうか焦っていたら、古泉のかみ砕いた説明が、実に分かりやすかった。SFとしての魅力も抜群なのだ。

 さらにラスト近くで、キョンの「そろそろ帰ろうぜ。ここは俺たちがいていい場所じゃない」といわれたハルヒが、「そうね、もう充分楽しんだし、帰ったほうがよさそうね」という場面に留意したい。ああ、本書はファンタジーでお馴染みの“行きて帰りし物語”になっていたのか。そしてそれは、私たち読者も同様だ。物語の世界に行き、物語の終わりと共に現実に帰ってきたのだから。もっとハルヒの世界で遊んでいたかったという気持ちもあるが、言って詮無いことである。今はただ、次の新刊を待つのみだ。それが一年後くらいに実現することを、本気で祈っているのである。

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