上條淳士が描いた時代と“うた”ーー革新的な漫画表現に触れる、画業40周年記念展覧会「LIVE」レポート

 「LIVE」とは、いかにも音楽をテーマにした作品やミュージシャンたちとのコラボレーションなどで知られる上條淳士らしいタイトルだが、この言葉にはもちろん、コロナ禍以降のいまを「生きる」という意味も込められているのだろう。

 現在、東京・弥生美術館にて、漫画家・上條淳士の画業40周年を記念した展覧会「LIVE」が開催中だ(2025年1月26日[日]まで)。


 上條淳士は1983年、短編「モッブ★ハンター」にてデビュー。その後、雁屋哲原作の近未来SF『ZINGY』(1984)の連載を経て、元パンクスのアイドルが芸能界をかき乱すロック漫画の金字塔『To-y』(1985〜1987)でブレイク。続く『SEX』(1988〜1992)では、「大きな物語」が失われたポストモダンの時代で、“見えない敵”に抗おうとする若者たちの姿を、また、『赤×黒』(1995)や『8-エイト-』(2000〜2003)では、「ストリート」に居場所を求める少年たちの激しい衝動を描いた。

 いずれもその時代時代を映し出す鏡のような作品であり、いまあらためて読み返してみると、80年代からゼロ年代にかけての、「東京」の移りゆく姿が刻まれた貴重な記録にもなっている。それは一重に、上條と共同執筆者のYOKO、歴代のアシスタント(正木秀尚、河合克敏など)たちが、白と黒の強烈なコントラストが印象的な画風で、その時々の都市の風景やファッションを正確に写し取ったからに他ならない。


紙の上での「LIVE」――描けないはずの“うた”を描いた革新的な漫画表現

 本展では、そんな「時代」を象徴する上條作品の美しい原画の数々が、制作順に展示されている。また、吉川晃司、THE STREET SLIDERS、BUCK-TICK、hide、HYDEなど、有名アーティストとのコラボ作品の展示コーナーも華やかだが、とりわけ注目すべきは、やはり代表作『To-y』の原画ということになるだろう。



 80年代半ば、上條は同作で漫画における音楽表現を革新したといっていい。具体的にいえば、あえて「歌詞を書かない」ことで、逆に、シンガーの“うた”や“声”を読み手に想像させたのだ(※)。

※それまでの音楽漫画では、「歌唱」の場面ではたいてい歌詞が書き込まれていた。

 上條いわく、実はこの「歌詞を書かない」という手法(?)は、何げなく音楽雑誌のグラビアページをめくっていて気づいたことなのだという。たしかに、音楽雑誌などに掲載されているライブの写真を見てみると、シンガーがシャウトしている様子を写した1枚だけで、(歌詞が添えられていなくても)充分“うた”が伝わってくるのではないだろうか(要は、上條はそれを漫画に「転用」したというわけだ)。


 いわれてみれば簡単な話に思えるかもしれないが、何事も最初に気づいたものがいちばん偉大なのである。そして、「気づく」だけでなく、それを別のジャンルの「表現」として成立させるには、やはり先に述べたように、その時代時代のファッションを正確に写し取る画力(絵の説得力)と、類いまれなセンスが必要なのである。

 疑問に思うなら、試しに、本展で展示されている「トーイ」こと藤井冬威(『To-y』の主人公)の歌唱シーンの原画を見てみるといいだろう。あなたが少しでもロックに理解のある人ならば、たった1コマの絵からでも、彼の“うた”が聞こえてくるはずだ。

 なお、本展の関連書として、画集『LIVE』が小学館クリエイティブより発売中である。こちらも、「上條淳士の40年」が集約された、圧巻の内容になっている。

「画業40周年記念 上條淳士展 LIVE」

期間:2024年9月28日(土)~2025年1月26日(日)
時間:10:00~17:00(最終入館は16:30まで)
休館日:月曜日(ただし10月14日、11月4日、1月13日は開館。10月15日、11月5日、12月28日~1月3日、1月14日は休館)
料金:一般1000円、大・高生 900円、中・小生500円

関連記事