速水健朗のこれはニュースではない:パリ五輪以後、ロサンゼルス五輪以前の世界ーーシリコンバレーはこれからもっと嫌われる

 ライター・編集者の速水健朗が時事ネタ、本、映画、音楽について語る人気ポッドキャスト番組『速水健朗のこれはニュースではない』との連動企画として最新回の話題をコラムとしてお届け。

 第14回は、パリ五輪とシリコンバレーについて。

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テクノロジーが下した判定に、人間の理解がおいつけなかった

 Snoop Doggy DoggっていつからSnoop Dogになったんだっけ? 6、7年くらいかと調べてみたら、もう26年前だった。パリ五輪の閉会式が終わり、フランスが退屈な文化を特徴とする国であることを開会式に引き続き再確認した。ただ、次のロサンゼルス大会に引き継がれるハンドオーバーのパートにはやや期待していたが、レッチリにせよビリー・アイリッシュにせよ、スヌープ・ドッグにせよ選曲それでよかったのか? ドクター・ドレーもいるんだから「カリフォルニア・ラヴ」くらい聞かせてほしかった。

 まず人間の誤審が多かった。でも近い将来、それすら懐かしくなるかも。それよりもテクノロジーが下した判定に、人間の理解がおいつけなかったことの方を突きつけられた。

 サッカー男子のスペイン戦の細谷真大のオフサイド。主審や線審、解説も実況も皆、オフサイドではないと思っていた中で、VARが数センチ踵がラインの後ろにはみ出しているのを検知した。100人が100人見落とすオフサイドだ。日本びいきで言っているわけではない。同じことは、今年の7月開催の欧州選手権でも起きていた。ベルギー代表のロメル・ルカクが3度、審判も観客も誰も気が付かないプレーが3度立て続けに取り消された。VAR2度とボール内に仕込まれたセンサーの判定によって取り消しされた。このようなテクノロジーだけが検知するファールといった出来事が数百回、数千回に1度しか起こらないのであればともかく、少なくとも月に4回起こっている。本当はルールの方を対応させるべきだが、今のところはテクノロジー側に任せきりで、人は驚いているだけ。

 テクノロジーの専門家は、AIが社会に浸透しても、あくまで最終的な判断をくだすのは人間であるという最終ラインを引いている。おそらく、その段階はすでに過ぎている。例えば、サッカーの線審たちは、微妙なケースでは旗を上げないことになった。試合を止めることなく、継続させてVARに判定を委ねるため。これでは尊厳を奪ってしまっていないか。線審はあと2、3年もすればこの仕事を失うだろう。

ロサンゼルス五輪で嫌われないために

 テクノロジーとオリンピック。次回はロサンゼルスなのだが、ピーター・ティールが最近公開されたインタビューで、サンフランシスコからロサンゼルスに引っ越した話をしていた。引っ越したのは何年か前のことのようだ。

 サンフランシスコは、地域区分が厳密すぎていらいらするのだという。家からガレージへのアクセスすら行政の管理が云々ということを言っている。多分、そうとうにでかい家に住んでいるのだと思う。ガレージはもっと大きいかも。それが行政区域をはみ出してしまうのだという愚痴。英語なのでアバウトにしか理解できないが、行政の仕組みの面倒くささに腹を立て、自由なロサンゼルスに引っ越したという話。

 もうひとつ。ティールは、テック業界の人たちが嫌われすぎていて、その空気に耐えられずサンフランシスコから逃げ出したのだという。ロサンゼルスは金持ちが多いから、まだましなのだ。今のカリフォルニアは、サウジアラビアにそっくりだとも言っていた。大手テック企業は何をやっても許される王族で、それ以外の人たちは彼らに従うほかない。

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