【連載】速水健朗のこれはニュースではない:東京の夜のタクシーと『地面師たち』の話

 ライター・編集者の速水健朗が時事ネタ、本、映画、音楽について語る人気ポッドキャスト番組『速水健朗のこれはニュースではない』との連動企画として最新回の話題をコラムとしてお届け。

 第13回は、話題のNetflixドラマ『地面師たち』と東京のタクシーについて。

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地面師で思い出す、村上龍の『愛と幻想のファシズム』

 Netflixのドラマ『地面師たち』。飲み屋でもソーシャルメディアでもこの話であふれていて、配信開始と同時期に始まったパリ五輪よりもよほど見られていそうな感触。ハンティングの場面から始まるオープニングはやや唐突だが、村上龍の『愛と幻想のファシズム』を思わせる始まり方だった。この小説ではゼロとトウジが出会うシチュエーションがハンティングだった。それを思い出した人たちがTwitterでも何人かいた。『地面師たち』は豊川悦司と綾野剛のコンビである。日本は、その狭さゆえ、馬に乗ってハンティングをするような場所すらない。その少ない資源で有る土地を狙うハンターたち。それが地上げ屋であり、本ドラマが描く地面師たちだ。

 騙されるデベロッパー側の社員を演じる山本耕史が、地上げ家時代から東京の土地を巡る裏の情報に通じている男(マキタ・スポーツ)の事務所を訪ねる場面がある。薄暗い事務所から路地を辿って表通りに出ると、現代の新橋の華やかな夜の街の光景が広がっている。現代の東京とバブル時代の東京が路地を挟んでつながっている。

 ドラマのような「いわく付き」の土地の話は、実際に東京にはたくさん存在する。この手の話は、皆大好物だが、僕の場合、たいていはタクシーの運転手から仕入れる。特に相手がベテランのタクシー運転手の場合、こちらから「この辺りって昔何でしたっけ」と聞くことにしている。タクシーの運転手たちは、情報通で驚くほど記憶力と話術に通じている。そして、バブル時代の東京を知っている世代がまだ残っている。

 NSXを売って貢いだ男が相手を殺した西新宿タワマン殺人。今年(2024年)の出来事だが、この舞台となったタワマンは「バブルの帝王」と呼ばれた男が手がけ、宙に浮いたまま「わけあり」の場所のすぐ近くだったとベテランのタクシー運転手から聞いた。へーと思って調べてみると、本当に目と鼻の先の住所だった。ここは長年放置され、塩漬けになっていた土地。タワマンが建つようになったのは、本当にごく最近のこと。

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