10年経っても色褪せない……『HUNTER×HUNTER』キメラアント編が最高傑作と言われる所以は?

 人気争いの激しいマンガ業界の中で、長期休載を挟みながらも確固たる地位を築き、未だファンからの人気が根強い『HUNTER×HUNTER』。迫力あるバトルシーンだけでなく、個性豊かなキャラクターや手に汗握る心理戦、先の読めない展開で読者の心を掴み、固定ファンを獲得している。様々な章で構成されている『HUNTER×HUNTER』だが、中でも“最高傑作”との呼び声が高いのが「キメラアント編」だ。今回は、「キメラアント編」が評価される理由について考察していく。

序盤の惹きの強さ

 まず挙げられる理由の1つは、序盤の惹きがとても強いということだ。新たに登場した敵「キメラアント」は、見た目の不気味さもさることながら、物語で徐々に明かされていく生態の悍ましさも飛び抜けている。人間を美味な餌として認識し、その旺盛な食欲で次々に一般人を襲う様子は、まさにゾンビ映画さながらのパニックホラーだ。基礎能力でも人間を凌駕するキメラアントだが、物語中で更に念能力をも手に入れてしまう。立ちはだかる敵の強大さに、絶望感を抱いた読者もいただろう。

 「キメラアント編」の序盤で、ゴンやキルアよりも実力者であり重要キャラだったカイトも、王直属の三戦士の1人ネフェルピトーにあっさり殺されてしまう。カイトの生存を強く信じるゴン。希望を抱かせる場面を1ページ捲ると、カイトの生首を抱えているネフェルピトーが大きく描かれた絶望的なシーンが現れるのだ。このようなグロテスクさを織り交ぜた印象的なシーンが多く、今後が非常に気になる構成になっている。

少年心をくすぐる展開の数々

 大勢の人間が命を落とすダークなシーンに隠されがちだが、「キメラアント編」は少年マンガの王道的な展開を踏襲している。強敵に負けて恩人であるカイトを亡くし、修行して強くなるもののそれでも敵わず、ピンチで覚醒し敵を倒すのだ。『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎も「結局王道が一番面白い」と「朝日新聞」のインタビューで述べているように、多くの読者の心を打つからこそ王道と呼ばれているのだろう。

 他にも、キメラアント側のコルトやメレオロン、イカルゴなどの元敵キャラが味方になるというのも少年心をくすぐられるアツい展開。味方になる理由は三者三様だが、かつて敵側だったキャラクターと共闘して活路を見出していく展開が嫌いな読者が、果たしているだろうか。

 また味方だけでなく、敵キャラが多角的に成長し、どんどん魅力的になっていくのも本章を盛り上げている要素の1つだろう。特にキメラアントの王であるメルエムの人間的な成長が凄まじい。序盤では人間を家畜同様の存在と嘲り、部下にも暴力を振るうなど暴君としての印象が強かった。しかし盤上遊戯である“軍儀”の名人の少女・コムギとの関わりの中で、他者への尊敬や誰かを思いやる気持ちなど、蟻らしからぬ“人間”らしさを獲得していく。

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