【書店ルポ】沼津駅後編 アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地で活況ーー本屋開店の好循環

■アニメの聖地だった書店閉店にファン衝撃も……

JR沼津駅前にある仲見世商店街のシンボルだった「マルサン書店仲見世店」は、コロナ騒動の最中に閉店になった。現在は移住相談などを受け付けるスペースがある。

 沼津では、JR沼津駅の南側に書店ゼロという時期が1年以上続いたが、2023年に「リバーブックス」がオープンした。戦後間もない頃に建てられた、築70年と推定される古民家を再生した小規模な書店である。実は、既出の江本典隆氏が、この店のオーナーなのである。

【書店ルポ】沼津駅 アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』聖地の本屋閉店に衝撃もーーアニメショップ奮闘

■アニメ聖地としての成功例  アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台になった静岡県沼津市は、日本各地にあるア…

沼津市内にオープンした「リバーブックス」。古民家を使った外装も非常に味わいがある。空き家は全国に増加傾向にあるが、その活用策として、個人経営の小規模書店はかなり魅力的なアイディアかもしれない。なお、店では近所で醸造している「沼津クラフト」のクラフトビールや富士市のほうじ茶が飲める。「沼津はクラフトビールの醸造が盛ん。ビールを書店で出したら面白いと思い、トントン拍子で実施が決まった」と、江本氏。ビールサーバーは、市内の閉店した居酒屋から譲ってもらったそうである。

 江本氏は旅行系出版社で長年に渡って書籍の編集や書店営業を行ったベテラン。もともとアニメに造詣が深かったわけではないというが、『ラブライブ!サンシャイン!!』は地元が舞台という縁もあり、「仕事に使えるのではないか」という若干不純な動機で視聴を始めたところ、ドはまりしたという。

 その後、『るるぶラブライブ!サンシャイン!!』の制作に携わることになり、江本氏のXは地元からの情報発信ということでファンの間からも評判になった。そして、一念発起して今年の3月31日で退職。書店経営者として新たな一歩を踏み出した。

 「本を選ぶこと自体が楽しい小規模な書店が増えていることもあって、そういう店をやりたいと思った。大きな書店はもはや沼津ではビジネスとして成り立たないかもしれませんが、小規模な本屋なら成り立つのではないかと考えていたら、たまたま空き店舗利活用の公募でこの空き家がテーマになっていたんです。公募締切の前日にJR沼津駅前の地下道で見つけて、急いで企画書を書き上げて応募したら、最優秀賞に選んでいただきました。こうして開店にこぎつけたのです」

「リバーブックス」で本が並んでいるのは、前出の「マルサン書店」で使われていた本棚である。

 店内は非常にコンパクトである。地元の縁で譲り受けたという「マルサン書店」の棚に、建築、美術など、ニッチながら興味がそそられる本が並ぶ。ちなみに、最近の売れ筋は点滅社の『鬱の本』だという。江本氏はラブライバーでもあるが、敢えて、『ラブライブ!』の本は大量には置いていない。『ラブライブ!』の本は「アニメイト」や「ゲーマーズ」で、ベストセラーは駅の「くまざわ書店」と、明確に棲み分けを考えたそうだ。既存の店と共存共栄の関係を築こうとする、江本氏の心配りがわかる。

■3つの書店の開店で点が面になった

選書にも江本氏のセンスが感じられる。本との出合いを求めて、今日も全国からお客さんがやってくる。

 こうした、店主の選書が光るこだわりの書店が近隣に開店する動きがみられるという。2023年、隣町の三島に「ヨット」と「ジンジャーブックス」の2店が相次いでオープンした。さすがの江本氏もライバル出現に若干焦ったのではと思いきや、「やっていることが被ったと思ったんですが、店の選書が面白いくらいに被らなかった。小規模書店でも、店主の個性や選書で明確に棲み分けができています」と話す。

 江本氏によると、この地域に3店があることで新たな相乗効果も生まれたのだという。

 「こういった小規模な書店巡りを趣味にしているお客さんが、来店されるんですよ。しかも、3店があるので集積の力が生まれ、点が面になったため、この地域が書店好きにとって旅の目的地になったのです。欲しい本はアマゾンで買えるわけですから、店主の選書を楽しみに来店される方ばかり。まさに、書店を訪れることや、書店で本を買うことを楽しんでくださるわけですよね」

店内にには展覧会が可能なミニギャラリーを併設。本の壁はボロボロだったが、江本氏がDIYを行って改修した。

 書店で面白そうな本と出会う楽しみを求める――。これが本来の書店の姿だったんだと、胸が熱くなったと語る江本氏。最近本を読んでないなという人や、ビールやほうじ茶の注文だけでも大歓迎という。こうした手軽さと気楽さが、小規模書店の魅力となっている。書店が一店もない市町村が増えている中、今後、地方の書店業界を救うのはこういった書店に希望を見出す店主たちなのかもしれない。

 

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