人気漫画家 生成AIに絵柄を無断学習される“なりすまし横行”に苦言「削除困難ギリギリ現行法を回避する」

■生成AIに関する議論が紛糾

クリエイターは生成AIとどう向き合うべきか?(unsplash)

  生成AIに関する話題は、連日のようにSNS上で“推進派”と“規制派”が激しい論争を繰り広げている。なかでも、イラストなどのクリエイティブな分野では、特に議論が紛糾している状態にある。SNSで目にするのは生成AIを規制したほうがいいとする意見であるが、推進したほうがいいという意見も多い。現在進行形で進化している生成AIの扱いをどのようにすべきか、結論が出るには至っていないのが現状だ。

 そんななか、生成AIに自身の絵柄を学習され、無断で絵柄LoRA(注:生成AIの絵柄学習モデル)を作成された漫画家がいる。『疫神のカルテ』などの作品がある樋口紀信である。樋口は生成AIを悪用され、実際に被害を受けた経験から、積極的にSNSで発信を行っている。いったいその被害の実態はどのようなものなのか。そして、生成AIと我々はどう向き合うべきなのか。

「前提として、現状の生成AIとその他のAIは分けて考えています。著作物や声を勝手に使って勝手に生成するのを、やめてほしいだけなんです」と話す樋口に、その想いを語っていただいた。

樋口紀信の公式Xより @susujinkou

■絵柄LoRAを使った嫌がらせが発生

――樋口紀信先生は、自身が受けた絵柄LoRAの被害についてX上で発言し、さらに2人の有名漫画家にその実態を訴えて大きな反響を呼びました。なぜ、絵柄LoRAが無断で作成されるに至ったのか、その経緯について教えてください。

樋口:僕の絵柄LoRAを作った人物は、それまで他のイラストレーターにも絵柄LoRAで嫌がらせをしたり、Xでなりすましのアカウントを作成するなどしていました。問題視した方々がその人物を通報しても凍結されず、行動はエスカレートするばかり。法律での対応も難しいと聞いて、このままではダメだと思い、声を上げ始めたのです。

――なるほど。

樋口:すると、そのなりすましのアカウントの人物が、“樋口紀信”の名を冠した絵柄LoRAを作成したのです。Xのポストから嫌がらせだとわかりました。周りの人たちが各所へ通報してくれたのですが、削除には至っていません。そして、なりすましアカウントの人物は「LoRAが削除されていないから、出版社から見捨てられているんだ」などと、僕を中傷するコメントを書き込みはじめました。

――それは酷すぎますね。絵柄LoRAの取り下げ申請はできないのですか。

樋口:取り下げ申請はできるのですが、アメリカで訴訟になってしまう可能性もあるんです。それに、削除できてもすぐ再アップロードされてしまうと聞きました。しかも、相手は様々な点で、ギリギリ、現行法を回避しているのでタチが悪いのです。

――世界的には生成AIを規制する動きも起こっていますね。

樋口:EU諸国などでは生成AIに対する批判が強く、様々な法律が決まりだしています。外圧があってなのか、日本でも規制が検討され始めましたが、まだ法的な取り締まりに至っていません。ただ、文化庁からは、特定クリエイターを狙い撃ちしたAI学習(注:作家絵柄LoRAの作成)は無断で行えない旨が、現在の見解で示されています。文化庁は今年から生成AIによる被害を集め始めました。相談が増えているため、相談窓口を増やす意向もあると聞いています。

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