東大卒業後、無職と離婚を経て東洋哲学に開眼……しんめいPが憧れる、陽キャとしての空海

陰キャ的な発想を打破してくれるのが龍樹

ーー陽キャと陰キャという分け方が面白いですね。逆に陰キャでおすすめの思想家はいますか。

しんめいP:陰キャだったら、龍樹だと思います。僕はインドのひろゆきと呼んでいます。顔がめちゃくちゃ似ていて、同じように理詰めなんですよ。龍樹は論理を構築するというよりは、基本の論理をすべて解体していくんですが。

 特に「自分は人よりも頭がいい」と感じているようなインテリこじらせ系の人におすすめです。そういう人は脳内で批判的な思考がある。例えば、僕は自分が軽薄な人間だと思っていますが、そうであるがゆえにリアルサウンドさんのインタビュー取材を受けるべきじゃないという論理を構築する。つまり「私は軽薄な人間である。リアルサウンドさんは本質的に突き詰めてきた人たちがインタビュー記事に登場している。ゆえに私は出るべきじゃない」という三段論法を構築して閉じこもってしまう。でも周りから見ると「いや、そんなこと言ってないで、受けちゃいなよ!」と思うわけです。なに一人でウジウジ悩んでいるんだと(笑)。そのように陰キャ的な発想を打破してくれるのが龍樹なんです。前提のところがフィクションであることを指摘して、全段階においてそれが原理的に成り立ってないことが明らかにしていく。

ーー世の中のものは、すべてが空であってフィクションであると。

しんめいP:例えば「自分は無職で弱い人間です」と自己定義をしてみます。でも隣に何十年も引きこもっている人がいたら、相対的に自分は強い人間に見えるかもしれない。つまり、ある論理空間において、比較対象がいて初めて「弱い」「強い」ということが成立するわけです。結局、ここで想定されている「自分」は実体を持たない。空=フィクションなんですよね。でも成り立ってない論理をもとに、自分の行動に限界を作ってしまっている。それを打破してくれる思想だと思います。

ーー最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

しんめいP:東洋大学の哲学研究者・清水高志先生がXで発言されていた「(日本人は)自分の文明の根源を見直そう」という趣旨の言葉に、僕はすごく感銘を受けました。自分自身、資本主義と反資本主義の間で悩んでいた時に、東洋哲学を知ることによって自分の足元を発見したような感覚がありました。

 東洋哲学には知的な研鑽と蓄積が膨大にあります。本来、身近なものであるはずなのに、今の時代は蔑ろにされてしまっていると思います。仏教と言っても葬式のイメージしかない方も多いと思います。でも、一度そこに光を当てて思想を学んでみると、生きることが楽になるかもしれません。

■書籍情報
『自分とか、ないから。教養としての東洋哲学』
著者:しんめいP
価格:1650円
発売日:2024年4月23日
出版社:サンクチュアリ出版

 

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