【新連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー 顎木あくみ新作からいぬじゅん10周年作品まで、今読みたい5作品

いぬじゅん『きみの10年分の涙』(スターツ出版文庫)

 2014年のデビュー作『いつか、眠りにつく日』をはじめ、生と死をモチーフにした切ない青春小説に定評のある作家・いぬじゅん。『きみの10年分の涙』は、作者が小説投稿サイト「野いちご」で初めて発表した原点ともいうべき作品。書きおろしの続編を加え、デビュー10周年記念として再出版された。主人公の光は、保健室登校をする中学2年生。浮気をした父の別居、幼馴染の正彦への長年にわたる秘めた恋など、さまざまな悩みを抱えて過ごしていた光はあるとき、ひょんなことから父の恋人だったナツと親しくなり――。思春期の複雑な心理を描く繊細な筆致と、光とナツの名付けられない関係性、そしてラストの一文がもたらす驚き。作者が得意とする“最後のどんでん返し”は、原点である本作にしてすでに鮮やかだ。ナツとの出会いによって動き出した光の成長に心が洗われる、瑞々しい青春小説である。

天野頌子『晴明の娘 白狐姫、京の闇を祓う』(ポプラ文庫ピュアフル)

 元ホストのインチキ陰陽師と正体は化け狐の少年がコンビを組み、さまざまな事件を解決する『よろず占い処 陰陽屋』シリーズ。累計110万部を突破し人気を博した同シリーズの著者が手掛ける新作は、安倍晴明の娘・煌子を主人公に、平安時代に生きる“本物”の陰陽師たちの姿を描き出す平安あやかしファンタジーだ。白狐である祖母の血を濃く受け継ぎ、狐耳と尻尾を持って生まれてきた煌子は、両親や兄たちに大切に慈しまれている。家族は正体を知られないよう邸の中で育てようとするが、好奇心旺盛で活発な煌子は外の世界に興味を示してはトラブルに巻き込まれていくのだった。やがて煌子は家族を危険に晒さないよう“最強の妖狐”になる決意を固め、今や無比の美貌と妖力を持つ白狐姫として京の都でその名を馳せている。数奇な境遇に生まれた煌子を愛する安倍一家の家族の絆があたたかく、成長した煌子が式神を従えて京の妖怪と華麗に戦う様はどこまでも痛快だ。パワフルでチャーミングなヒロインの造形と、彼女を取り巻く個性豊かなキャラクターの掛け合いを楽しんでほしい。

関連記事