『わたしの幸せな結婚』顎木あくみ、待望の新作『人魚のあわ恋』はどんな恋物語を描く?

 ここで、アンデルセンとは別に日本でも古くから伝わる、人魚が登場するある物語が浮かんでくる。それは、高橋留美子による「人魚は笑わない」や「人魚の森」といった「人魚シリーズ」と呼ばれる一連の漫画作品にもモチーフとして使われた物語で、海に生きる人魚の姫と、地上で暮らす人間の王子と間にそびえ立つ種族の壁がもたらす悲恋とは違った、人間の欲望が陰惨な状況をもたらす中で、痛みや苦しみを味わいながら生きる苦悩のようなものがテーマとして浮かんでくる。

 『人魚のあわ恋』がそちらの「人魚」もモチーフとして取り入れているとしたら、朝名と咲弥が結ばれることなく終わるのではなく、遠い過去に生まれた因縁にも似た関係を確かめ合いながら、因習を逃れて進み本当の恋をつかむ壮大な物語になりそうだ。その中では、お互いに抱くだろう恐怖心を克服し、受け入れようとする開放のドラマも描かれるだろう。

 そして、朝名が諦めていた自分の人生を取り戻し、生きていこうとする気持ちになっていく姿に共感を覚え、自分はここにいても良いんだと思う人が生まれ、誰かのために生きるのでは無く、噂話にも耳を貸さないで自分自身で運命を切り開こうとする咲弥に惹かれ、独り立ちする人が現れることになるはずだ。

 タムラ圭によるコミカライズも決定している本シリーズ。これからの展開が大いに気になる。

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