江戸川乱歩、なぜ現代でも読み継がれる? 書評家・千街晶之が今年刊行された注目作から考察

 今年(2023年)は江戸川乱歩が「二銭銅貨」でデビューしてから百周年にあたることもあって、乱歩関連の企画が相次いだ。まずアンソロジーから触れておくと、動画を中心に活躍している小説紹介クリエイターのけんごが乱歩作品から傑作18篇を選り抜いた『江戸川乱歩 傑作選』(blueprint)は、各篇にけんごによる解説がついているし、普通なら中短篇だけでまとめそうなところ、ジュヴナイル長篇の『怪人二十面相』も収録されている点が異彩を放っている。

 『探偵明智小五郎 江戸川乱歩傑作選』(本の泉社)は、明智小五郎が登場する全中短篇に、乱歩自身によるそれぞれの作品解説を併録している。

  アンソロジー以外では、平凡社から「別冊太陽」シリーズの1冊として『江戸川乱歩 日本探偵小説の父』が刊行され、さまざまな角度から乱歩の業績にスポットライトを当てている。乱歩の未完成長篇『悪霊』を完結させようとする試みとして、今井K『江戸川乱歩『悪霊』 完結版』(文芸社)と、刊行は2024年1月の予定だが芦辺拓『乱歩殺人事件——「悪霊」ふたたび』(KADOKAWA)が相次いだのも百周年ならではだろう。他に、乱歩の名作短篇を藤田新策が絵本にした『乱歩えほん 押絵と旅する男』(あすなろ書房)や、弟たちと古書店を経営していた若き日の乱歩が探偵役として活躍する柳川一のミステリ小説『三人書房』(東京創元社)などもあった。

  このような企画で賑わったのは、もちろんデビュー百周年という節目の年だったからなのは間違いないにせよ、乱歩の小説自体が読み継がれていなければ企画も成立しないだろう。論理的な本格派探偵小説の日本におけるパイオニアでありながら異常心理や怪奇幻想の世界で本領を発揮した多面性、戦後は探偵文壇全体の引率者・後援者であり続けた類稀なリーダーシップ、百年後の現在も古びない文体……それらすべてが江戸川乱歩という巨人をかたちづくり、不滅の存在としているのである。すぐスランプになって休載や逃避行を繰り返すという側面さえも、「乱歩伝説」における人間味のある部分として好意的に受け止められているのではないか。

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