流行りのフードデリバリー業界にも幽霊は出る? 「業界怪談」が伝えるプロの仕事の流儀

 意外なことに登場人物の多くは、同業者から怖い話を聞いたり実際に恐ろしい目に遭ったりしても、「もうこんな仕事懲り懲り」とはならない。それはなぜなのか? 各業界の怪談の後ろに収録されている、関係者座談会。そこでの〈やっぱり美容が好きなので、お客様をきれいにして、それを喜んでいただけるっていう仕事が好きだからですかね〉(美容師)という答えのように、仕事のやりがいは理由として皆もちろんあるはず。さらにもう一つ考えられるのが、幽霊との遭遇や超常現象を、自分を見つめ直すきっかけとして捉えている可能性だ。

〈いなくなってしまった人たちには、決して手は届かない〉〈わからないまま僕たちは、何事もなかったかのようにきれいに、整える〉(ハウスクリーニング業者)。〈どれだけ誠実に仕事をしたつもりでいても、思いもよらぬ形で故人の意志をないがしろにし、怒りを買うことはあるのだと、そのたびに胸に刻み込む〉(葬儀業者)と、「中の人」たちは「怖かった」で怪談を終わらせずに、そこから仕事の意義や心構えについて考える。本書のお仕事小説としての側面に注目して読んでみると、彼らの仕事に対する姿勢は、共感できる部分の多いことに気づく。

 その真摯な仕事ぶりで特に印象に残ったのが、霊感の強いタクシー運転手の高山さん(仮名)。座談会では〈手をあげられたらもうお化けさんでも乗せますが、ただメーターだけは入れないようにしてますけどね〉と語る。そして怪談の中では、前述のアプリで呼び出してきた幽霊を乗せて人けのない夜の山道を走り、最終的には望みの場所へと送り届けて供養までしている。

 どんな状況でも職務を全うするこうしたプロフェッショナルの存在する限り、今後も業界怪談は生まれていくに違いない。本人は「勘弁して」と、思うかもしれないけど。

 

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