歴史小説家・今村翔吾、書店減少問題に決起「一つでも、出版界が明るくなるニュースを」

 書店の減少が加速度的に進んでいる。書店が1店舗もない自治体は全国で約26%になっていると、2023年3月31日付の朝日新聞が報じていたり、出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によれば、全国1741市区町村のうち456市町村に書店がないという。今年に入り、さらに追い打ちをかけるように、都心でも大型書店が相次いで閉店しているし、地方でも閉店のニュースが連日のように出ていることからさらに減少していることで予測される。

 そんな状況を受けて、滋賀県大津市在住の直木賞作家・今村翔吾氏が一般社団法人「ホンミライ」を設立し、理事長に就任すると発表した。団体名の通り、本の未来を守り、活字文化の振興を目指すという。このポストは多くの反響となっていた。

  今村氏はXのポストで、「このままだと書店は消滅する。そのようなことを耳にした方も多いはずです。文筆を生業とする我々は特によく聞きます」「私がデビューした2017年から、昨年2022年までで2千店以上の書店が消えました。20年前から見ると約1万店の減少。半数にまでなっているのが現状です」と、書店が著しく減っている状況を危惧。

  今村氏自身は、作品を40作以上は発表して出版界に少なからず貢献してきたものの、書店が減少する状況は変わらないどころか、むしろ悪化していると心境を綴った。そして、優れた作品が日々出版されている現状に触れ、「それが凋落に対して一定の歯止めになっているかもしれませんが、潮流に押されまくっていることは事実です」と述べた。

 ここで、今村氏はあえて「書店は滅んではいけないのか」という問いに向き合い、「フラットに見ると、決してNOとはいえない」「人の歴史の中で消えていった職業、業種というのは確かに存在します」「消えていく職というのはあるのです。そういう意味では書店もそうなのかもしれません」と考えを巡らせながら、「ただ、私は書店は必要だと思います」「無くなって欲しくはないのです」と結論を出した。

  今村氏によれば、現在の書店を取り巻く状況を大坂の陣に例えるとすれば、外堀は完全に埋まっていて、出撃策しか残されていない状態にあるという。確かに、コロナ騒動下で日本の人口と出生率は大きく減少し、地方は過疎化が急速に進んでいる。そして、ネット書店や電子書籍が台頭しており、小売店としてのリアル書店が急浮上できる要因はほとんどないと言っていい。

  しかし、それでも今村氏は「私はその為に出来るありとあらゆることをしていきたいと考えています。書籍を発表するのは当然ながら、書店を引き継いでみるのも、まつり旅で全国を回ってみるのも、講演やTVに出てみるのも全てそうです」「無駄かもしれないことでも、まずは試してみる。千のうち、一つでも効果がなくともです」と語り、書店の存続のために力を尽くすと決意を語った。

  こうした行動を起こした思いを、今村氏は、本に出逢ったことで現在の人生があるためだと語った。特に、小学生が本を買いに行ける町の小さな書店があったからこそ、とも述べている。記者もこの思いには共感する。記者は秋田県の田舎町の出身だが、個人経営の小さな書店があったことで多くの本との出会いがあったのだ。

  リアルサウンドブックでは、地方の書店の現状についてたびたび取材している。記者が通った羽後町の書店「ミケーネ」の店主の思いは、ぜひ今村氏にも読んでいただきたいと思う。今村氏のXにコメントしている人もいたが、書店の問題は、取次の配本のシステムを根本から変えなければ解決は難しいと思われる。

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リアルサウンドブックでたびたび登場している、秋田県羽後町の「ミケーネ」は、人口約1万3000人の農村の田園風景の中に立つ個人経営…

  作家がどんなに質の高い面白い本を作っても、地方の書店にはほとんど配本されない事実を、作家ほど知らないことが多い。顧客から注文が入っているにも関わらず村上春樹の新刊が発売日に注文分が届かなかったり、『【推しの子】』のような時代を席巻する大ヒット漫画がたった1冊(10巻のみ。取材当時)しか入らないなど、書店主の努力だけではどうにもできない問題がたくさんある。これからは取次やメディア、書店だけではなく、書き手やユーザー、行政など、出版業界だけに止まらず抜本的に解決の糸口をしっかりと議論をすることが肝要であろう。

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