悪役令嬢モノ、なぜ人気? はめふら、わたおし、溺愛ルート……話題作から読み解く面白さ

 「悪役令嬢」というジャンルが人気だ。アニメ化されたりランキングの上位に名を連ねたりする作品が多く出て来ている。悪役令嬢として断罪される運命に挑む展開に、入り組んだパズルを解くような楽しさがあるからか。完璧無比なヒロインとは違う悪役令嬢の存在が、逆に人間味を感じさせるからか。最近の「悪役令嬢」の話題作から面白さの理由に迫ってみた。

 「悪役令嬢」の人気を作ったと言える作品が、山口悟による『乙女ゲーム破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(一迅社文庫アイリス)だ。わがまま放題に育っていた公爵家令嬢のカタリナ・クラエスが8歳になった時、自分の前世が女子高生で、交通事故に遭って死んでしまったことを思い出した。

 そして、自身のカタリナという名前や、近くにいた王国の第三王子ジオルドの存在から、自分がよくプレイしていた乙女ゲーム『FORTUNE・LOVER』とそっくりな世界にいることに気づく。そして慌てる。自分がカタリナだということに。なぜならカタリナは、ヒロインを邪魔して虐めたあげくに排除され、処刑されるか良くて追放されるゲーム内の悪役令嬢だった。

 そこから始まるカタリナの、破滅フラグを回避し平穏に生きて断罪の運命を逃れようとする頑張りを描いていくのが、この「はめふら」というシリーズのメインストーリー。破滅フラグを立てないために謙虚に生きようとする様が、かえってゲームの攻略対象となっているイケメンたちの興味を惹いてしまい、カタリナを困惑させる流れが面白い。

 破滅しても農業の知識を身につけて食べていけるよう、公爵令嬢であるにも関わらず畑仕事に精を出す姿のギャップにも笑える。もっとも、いずれ自分を破滅させる存在だった攻略対象のイケメンたちが、まるで変わってしまったカタリナの姿を見て、真剣に彼女のことを思うようになっていくところがゲームとは違った展開だ。

 頭に傷を負っても、元が庶民だからと気にしていない姿を見せたことで、ドSの性格だった第三王子ジオルドの気持ちを本気にさせてしまう。弟のような存在で、カタリナや義母の虐待で鬱屈したあげく、希代のナンパ師になってしまった義弟キースも、素直で優しい性格に育って、やはりカタリナへの関心を抱くようになる。

 庶民だからこその無頓着さであり、前世から受け継いだ優しさが、結局のところは人生でとても重要なことだと気づかせてくれるところに、読んでいる人たちが自分たちの人生も決して悪いものではないと、安心感を誘われる。そうした読み心地の良さが、「はめふら」人気の理由のひとつかもしれない。

 2期まで放送されたTVアニメでは、カタリナたちが魔法学園を卒業するところまで描かれたが、原作はその後も続いている。本来はゲームのヒロインでカタリナを悪役令嬢として追い落とす役だったマリアといっしょに魔法省に入ったが、そこが続編『FORTUNE・LOVER II』の舞台で、断罪の運命からは逃れきっていないことに気づく。

 9月20日発売の最新刊『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…13』でも、依然として続く運命=破滅フラグに挑むカタリナの奮闘を楽しみたい。一方で、12月8日は完全新作ストーリーで『劇場版 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』が公開。見かけは超お嬢様ながら中身は庶民のカタリナが見せる、ギャップありまくりの喋りや動きにまた出会えると思うと、公開が待ち遠しい。

 アニメ化といえば、10月2日からテレビアニメが始まる「悪役令嬢」作品が、いのり。『私の推しは悪役令嬢。』(GL文庫、加筆修正された『私の推しは悪役令嬢。-Revolution-』も刊行中)だ。

 過労死した大橋零が目覚めると、そこは恋愛シミュレーションゲーム『Revolution』の中だったが、転生したのはレイ=テイラーという名のヒロインだったところが、「悪役令嬢」の中では異例。ゲームをプレイした時から、自分に正直な生き方が大好きだった悪役令嬢のクレアを、破滅から救おうと奮闘する展開も異例で、それが、他の「悪役令嬢」にはない読み味となっている。

 クレアから突き飛ばされて置物のようだと誹られれば、「他人に頼らず自ら手を汚されるなんて!」と褒め称える。足を踏まれれば、「もっと強く踏んで下さい!」と訴える。どれだけ意地悪されても、それを「愛」だからと受け止め同じだけの愛を返そうとするレイを最初は気味悪がっていたクレアだったが、こともあろうに自分のメイドになりたいと言って、面接まで受けに来たことに感心するかというと、やっぱりぎゃーぎゃー言って不採用を訴える。

 そうしたやりとりを読んでいくうち、どれだけ踏みにじられてもクレアへの愛を貫くレイの言動のまっすぐさに、いつしか惹かれてしまっていることに気づくだろう。やがて起こる国難とも言える事態に、レイがクレアのことを持って行動し、悪役令嬢としての運命を変えようと奮闘する様に、果たしてクレアは心を開いてくれるのか。その後も度々襲ってくるクレアの危機に、レイはどう立ち向かっていくのか。1冊手に取れば先が気になって、読み進めたくなるシリーズだ。

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