大学生 × キャバ嬢 × ゲイバー店員、奇妙な三角関係の結末は? ラノベ出身作家が描く複雑な人間模様

 続く「明日世界は終わらない」は、大学生の竜朗・キャバ嬢の綺子・ゲイバーのバーテンダーの周の三人が、ちょっとした騒動を経て定期的に会うようになる。竜朗は綺子が、綺子は周が、周は竜朗が、それぞれ好きである。でも三人は、微妙なバランスで成り立つ今の関係を大切にしている。それは竜朗が社会人になっても変わらない。しかし優しい空間は、いつか壊れるのだった。

 三人が知り合うエピソードが面白く、ぐっと物語の世界に引き込まれる。そして三人の関係から生まれた、友情と恋愛が入り混じった関係が、いつまでも続くことを願ってしまうのだ――なんて思う時点で、作者の思う壺だろう。何事にも永遠はない。だからこそ、人生の一時の輝きが愛おしい。自分の人生に幸せな瞬間があったことを理解している人なら、本作を読んで切ない気持ちになるはずだ。

 この調子で書いていると、いつまでたっても書評が終わらない。残りの三作は簡単に触れよう。「不自由な大人たち」は、ヒロインが三人の男との不倫関係を解消する話だが、真に注目すべきは親友に依存するヒロインの在り方だ。「家族の事情」は、両親によって心が歪み、互いに依存する姉弟が、姉の恋人を見つけようとする騒動を経て、一歩前に進む。ラストの「砂が落ちきる」は、34歳のOLが、奇妙な出会い方をした男を相手に、処女を捨てようとする。恋愛小説風の展開だが、人生の一瞬を交錯させた男女の物語といった方がいい。

 以上五篇の登場人物は、どこか世の中とズレている。だが人間は、大なり小なり、世の中とズレた部分を持っている。私もあなたも持っている。ゆえに〝眠れない夜にみる夢は〟私たちの心と共鳴するのである。

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