ブックライブ、話題の漫画を生み出す背景に”ビッグデータ”の活用あり マーケティング部担当者が語るヒットを生む秘訣
マーケティング部の意見はどこまで反映される?
――漫画の第一印象を決めるものと言えば、作品のタイトルです。ここにもマーケティングの要望は表れているのでしょうか。
坪井:タイトルはキャッチーで、かつ口に出してもらいやすいものになるように気を付けています。特に、難しい漢字の使用はNGですね。
田中:バナーを見たときにクリックできなくても、後で思い出して検索したら目当ての漫画に到達しやすいような、覚えやすさが重要ですね。
――そのあたりはネット特有の事情ですね。細かいフィードバックは、作中の絵やセリフにも及んでいるのでしょうか。
坪井:プロットの段階では、ヒット傾向に基づいたストーリーに近づけるため、シナリオの順番を入れ替えたりとか、ネームの段階では、顔のアップを増やしてほしいとか、キャラクターの表情を変えてほしいといった具合に、細かく指示を出します。下描きにペン入れが進んでからも、仕上げの一歩手前までセリフの調整をすることもあります。そうした変更を経て完成したシーンが実際にバナー広告に使われて、狙い通りの効果を生み出すという流れです。
――とはいえ、編集者や漫画家によってはストーリーを重視するため、そういった意見を取り込むことに躊躇する人もいそうですよね。
坪井:私たちは、実際に広告運用をしているチームであることが強みで、バナー広告の実績を元に得た莫大なデータがあるので、それをもとに編集さんにも納得してもらえるように丁寧に説明しています。基本的には「そういうデータがあるなら」と受け入れていただけるのですが、ご納得いただくには、漫画家さんと編集さんの信頼関係も欠かせないと思います。
また、一部の作品を除いて、私たちがお手伝いするのは物語の最初の部分がメインなので、広告をきっかけに売れたとしても、その後人気を維持できる作品は、やはり作家さん自身の創造性があってこそだと感じます。
――ビッグデータを活かしているとなると、思い浮かぶのがAIです。ストーリー制作の上で、今後、AIを使う計画などはありますか。
田中:漫画の制作については、具体的にAIを取り入れている部分は今のところありません。とはいえ、AIは大いに可能性があるツールですし、社内で制作に活用できるのかどうかの議論は進めています。また、広告出稿においてはさまざまな部分でAIを活用しており、そこで集められたビッグデータはストーリー制作にも反映されています。
ネット漫画には社会性が如実に表れる
――今、ブックライブで旬な漫画のジャンルはなんでしょうか。
坪井:最近のトレンドは、人間関係のトラブルを描いた漫画が人気になっています。例えば、身近な職場や友人とのトラブル、カップルの修羅場などを描いたものです。昨年の夏からコロナ禍の規制がゆるくなり、人付き合いが増えた社会の中で軋轢やストレスを感じることが多くなった影響もあるのかもしれません。読者の共感を得やすい内容だったり、もしくはトラブルを後味よく解決できるかどうかが重視される傾向にあるため、私たちも身近なネタを探したり、どういうときにすっきりできるかなどを日夜研究しています。
――すっきりしやすい漫画はどんなものなのでしょうか。
坪井:勧善懲悪をしっかり描いた漫画が多いです。ストレス要因となる人を作品内でわかりやすい悪者として演出することで、読者のフラストレーションの向き先がはっきりした作品は支持を集めやすいですね。
――長引いたコロナ騒動のフラストレーションを、漫画が救っているのかもしれませんね。ちなみにコロナ騒動が起こる前と後では、ブックライブさんで人気のジャンルも変化したのでしょうか。
坪井:コロナ禍が始まった時は平穏を求める傾向があったので、ほっこりした恋愛シリーズなどが流行っていました。トラブル系が多くなったのは、おっしゃる通りで人々が社会に対してストレスを感じているのかもしれませんね。漫画の売れ行きにも社会情勢が如実に表れていると思います。
――ちなみに、ブックライブさんで漫画が売れる時間帯はいつなのでしょうか。
田中:夜間の方が、売上が伸びます。一日の仕事が終わってゆっくりしているときや、寝る前に買っていただけています。漫画は余暇で読むものですし、夜にじっくり読みたいというニーズも高いのかなと思います。
ブックライブの強みを生かした漫画制作
――ビッグデータを使った漫画制作を他社が追従する動きはあるのでしょうか。
田中:同じような作り方をされるところが、近年増えている印象です。実際に売上に直結する例が多いと、認知されてきているのではないでしょうか。
――企画を進めるうえで、ブックライブさんならではの強みや他社との差別化を図れている部分はありますでしょうか。
田中:やはり、弊社内には編集部が複数あるのが強いですね。同じような取り組みをしている電子書籍ストアでも、編集を外注したり、出版社に頼んでいる例が多いです。そういったお取り組みは弊社でもやっておりますし、スタンダードではあるのですが、マーケティング部と編集部が直接手を組むことで、よりスピーディーで狙い通りの制作が実現できます。マーケティングで得た情報をすぐに編集部と共有し、作品に反映できるのです。
――そういった強みを生かして、今後はどんな漫画を制作していきたいと考えていますか。
坪井:漫画としての本来の面白さを、もっともっと追求していきたいですね。そして、愛されるキャラクターが出てくる作品を創りたい。バナー広告を活用して新規のお客さんを連れてくることももちろん重要なのですが、そこばかりを狙うと、どうしても作る作品の傾向が似てきてしまうという課題があります。今後も研究を進めて、読者の満足度を高め、ブックライブのファンになってもらえるきっかけになる作品作りに努力していきたいと思います。