新装版『ゆうれい談』『艮』刊行で注目! ホラー漫画の巨匠・山岸凉子の作家性

 7月21日、うだるような暑さの中、まるで涼を取ってほしいとでも言いたげに、漫画家 山岸凉子の新装版『ゆうれい談』と単行本初収録作品集『艮(うしとら)』が紙と電子で同時発売された。

 『ゆうれい談』は、山岸が萩尾望都をはじめとする漫画家仲間やアシスタントから聞いたり、自ら体験したりした怪談話を満載している。最大の特徴は、実際に起こった出来事を淡々と紹介していること。不可解なものを目にして、何であるかを理解し、一気に身体中を恐怖が支配する様を描いている。怪談話にありがちな、幽霊の目的や後日談などはない。

 それらの怪談話を掘り下げずに置き土産のように語るのは、そもそも怪談話とは、ある日突然経験してまった災いのようなものだからだろう。そして、山岸本人が非常に怖がりで、それ以上関わりたくないと感じているからだ。それは、読者に恐怖の体験談を募ったものの、送られてきた手紙の内容に恐怖したあまりダンボールごと捨ててしまったエピソードからも伺える。

 だが、そこで現実から目を背けようとするのではなく、「幽霊はいる」と断言することに山岸ホラーの深さと恐怖がある。

 『艮(うしとら)』には、インチキ霊能者の取材をきっかけに不安が募っていく編集者の話や、死神が見える看護師の話、死線をさまよう女性の話、ミステリアスで美しすぎる女性と結婚した男性の話が収められている。

山岸凉子の代表作

  山岸凉子の作品ジャンルは、大きく4つに分けられる。歴史、神話、バレエ、そしてホラーだ。

 歴史ものの代表作は聖徳太子を題材にした『日出処の天子』(1980)や、ツタンカーメンの王墓発掘にいたるまでを描いた『ツタンカーメン』(1996)など。

 神話ものは短編が多く、『イシス』(1997)や『ハトシェプスト』(1995)、『月読』(1986)などが有名。長編だと『妖精王』(1977)や『ヤマトタケル』(1986)がある。

 バレエは、『アラベスク』(1971)と『舞姫 テレプシコーラ』(2000)だ。優雅に見えるバレエをめぐるリアルを描いた2つの長編は、バレエのポーズを正しく描写していると高く評価されている。

 『ゆうれい談』や『艮(うしとら)』のように、ホラーも山岸が得意とするジャンルだ。ホラーと分類されるものの中には、純粋にゆうれいが登場するもの、異界の扉を開いてしまったもの、ゆうれいは出てこないがゾクっとする心理もの、実在の事件を題材にしたサスペンステイストのもの、神話を織り交ぜたものといった具合に多岐にわたる。中でも有名なのは『汐の声』(1982)と『わたしの人形は良い人形』(1986)だと思われる。心理ホラーでは『天人唐草』(1979)が圧倒的存在感を放つ。どれも眠れなくなるほど怖いと評判だ。

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