宮崎駿『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』『コクリコ坂から』…宮沢賢治からの影響を受けた”イーハトーブ”の世界観

 ついに宮崎駿の最新作『君たちはどう生きるか』が公開された。既に映画館に足を運んだ人も多いのではないだろうか。「金曜ロードショー」ではスタジオジブリ作品『コクリコ坂から』が放映されジブリ作品が話題となっている。

 『コクリコ坂から』はスタジオジブリを代表するアニメーション監督である宮崎駿の息子、宮崎吾朗の監督作品であるが、宮崎駿自身も企画や脚本などで参加している。宮崎親子の実質的な共作と言っていい。

  宮崎駿は手塚治虫の『新寳島』に影響されて漫画家を目指したこともあるなど、様々なクリエイターから影響を受けている。そして、スタジオジブリ作品に特に強く見られるのは童話作家の宮沢賢治の影響である。

  例えば、宮沢賢治の影響は『コクリコ坂から』にも見られる。作品の中で、学生たちが合唱する「紺色のうねりが」という劇中歌が登場するが、歌詞のもとになったのが、賢治の「生徒諸君に寄せる」という詩なのだ。賢治が旧制盛岡中学校(現在の盛岡第一高校)への寄稿文として執筆したものである。

 「生徒諸君に寄せる」は決して一般に広く知られている詩ではない。しかし、こうした作品からオマージュを受けて作詞を行い、劇中歌として起用した点に、宮崎のリスペクト精神が感じられる。なお、この曲は歌詞の1番を宮崎駿、2番を宮崎吾朗が作詞している。賢治と宮崎親子3人のコラボと言える貴重な曲なので、改めて観賞するとそれぞれのスタイルが表れているので興味深い。

  宮崎駿が賢治に心酔していたことは、他のスタジオジブリ作品を見てもよくわかる。例えば、『千と千尋の神隠し』の終盤で、千尋がカオナシと一緒に電車に乗っている場面がある。ここは賢治の『銀河鉄道の夜』から着想を得ているといわれる。また、『となりのトトロ』の中盤で、バス停でサツキとメイがトトロに遭遇する場面がある。ここは賢治の『どんぐりと山猫』からヒントを得ているといわれる。

  なお、スタジオジブリを支えたもう一人の巨匠である高畑勲も、賢治の作品と接点をもっている。1982年に手掛けた『セロ弾きのゴーシュ』は、賢治の小説をアニメ化した作品だ。まだスタジオジブリが立ち上がる前の高畑作品で、長い年月をかけて丹念に制作された作品である。

  また、「三鷹の森ジブリ美術館」の建設前、宮崎が美術館の構想を練っているとき、エッセイ漫画の中に「イーハトーブ」などの言葉を綴っている。賢治が生み出した童話や小説と、スタジオジブリ作品。自然界に生きる者へのまなざし、そして和の世界観を生かしたファンタジー作品を制作している点など、何かと共通する要素が多い。賢治が思い描いたイーハトーブの世界観は、宮崎駿の感性を大いに刺激したと考えられる。

関連記事