旧ソ連の珍品「肋骨レコード」とは? ディスクユニオンのレコード・バイヤーによる解説本が面白い

レコードは魔法である

 とはいえ、一般的な音楽好きにとっては、ジャケットのデザインがどうであろうと、製造国がどこであろうと、ましてや、品番やラベルに微妙な違いがあろうと、“そんなことはどうでもいい”のかもしれない。

 しかし、コレクターたちはそうしたことの1つ1つにこだわる。それはなぜか。それはたぶん、その「盤」にしかない“歴史”が、文字通り“記録(レコード)”として刻み込まれているからだろう。

 先に挙げた本の中で、片岡義男はこんなことを書いている。

 LPは魔法だ。過去のある時あるところで流れた時間が、音楽にかたちを変えて、LPの盤面の音溝に刻み込んである。その音溝から音楽を電気的に再生させると、過去の時間が現在の時間とひとつになって、現在のなかを経過していく。何度繰り返しても、おなじことが起きる。これを魔法と呼ばないなら、他のいったいなにが魔法なのか。

~『僕らのヒットパレード』片岡義男・小西康陽(国書刊行会)より~

 まったくの同感である。そしてその「魔法」をより深く理解するための鍵が、山中明の『アナログレコードにまつわるエトセトラ』には隠されているといってもいいかもしれない。

 いずれにせよ、同書を読めば、古今東西のレコードの溝に刻み込まれているのが、単なる音の信号ではない、ということがわかるだろう。そう、そこに刻み込まれているのは、かつて音楽を愛した人々の歴史そのもの、といっても過言ではないのである。

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