「AIグラビア」写真集が発売中止へ 画像生成や小説……”AI創作”による”類似性”は著作権侵害になる?
集英社は6月7日、AIが生成した初のグラビア写真集『生まれたて。』の発売中止を決定した。同写真集は電子書籍サイトで5月29日に発売したばかりだったが、約10日間ほどで発売中止となってしまったことになる。
『生まれたて。』は発表されると瞬く間に話題となった。登場するかわいらしいグラビアモデルの名前は「さつきあい」というが、実はAIが創り出した実在しない“妹系美少女”であり、集英社の週刊誌「週刊プレイボーイ」編集部が画像生成して生み出したものだ。
発売されると「手の表現がおかしい」「受け付けない」というネガティブな意見から、「かわいいから十分にありだ」「次のAIグラビアが待ち遠しい」などの肯定的な意見まで、まさに賛否両論であった。
ほかにも「グラビアモデルの仕事はAIに奪われるのではないか」などの視点からも議論が巻き起こった。大手出版社の挑戦は、業界に一石を投じることになったといえる。しかし、AIに付きまとう問題は著作権の問題であり、現に『生まれたて。』に関しても「著作権侵害につながるのではないか」という指摘をする人も少なくなかった。
「週刊プレイボーイ」編集部は『生まれたて。』を発売した経緯について、「グラビアにおける生成AIの可能性を探るため、企画したものです」としている。一方で、発売中止に関しては「本企画について発売後よりたくさんのご意見を頂戴し、編集部内で改めて検証をいたしました」と説明。
そして今回の発売中止については、「制作過程において、編集部で生成AIをとりまく様々な論点・問題点についての検討が十分ではなく、AI生成物の商品化については、世の中の議論の深まりを見据えつつ、より慎重に考えるべきであったと判断するにいたりました」と発表した。
なお、Twitter上では「実在のモデルに似ている」という意見もあったが、たまたま似たのだろうか。それとも編集部が意図して似せたのだろうか。その点は現時点ではわからない。
しかし、AIの生成物に関しては「たまたま似る」という問題が発生し得る。AIがネット上からピックアップした画像を使用するためである。その場合、著作権はどうなるのか、肖像権はどうなるのか、そして何より、倫理的に問題がないのかなど、今後解決すべき課題は多いのである。
6月8日に読売新聞社が配信したニュースによれば、岸田首相が本部長を務める政府の知的財産戦略本部が近くまとめる「知的財産推進計画2023」の原案にも、AIの問題が盛り込まれるという。著作権侵害の事例が多発することへの懸念や、AIによる著作物の学習が侵害にあたるケースなどの論点整理を進め、必要な方策を検討するとのことだ。
いよいよ政府もAIの問題に本腰を入れて取り組みはじめるようだが、AIは急速に進化しているため、現状では政府も企業の対応が追いついていない状況にある。文化庁が発表した「AIと著作権」の提言では、既存の著作物との類似性が認められれば、著作侵害に当たるという見解が話題となっているが、既に述べたような「偶然似た」場合などは著作権侵害に当たるのか。
弁護士や法律家の間でも意見が分かれており、AIに対する過度な規制がかえって文化を委縮させる結果になるのではないか、と指摘する識者もいる。また、AIを規制しない国によって文化面でリードされるのではないか、という懸念もある。そもそもAIは有効に活用すれば創造性を拡大する可能性もあるだけに、過度な規制はしないほうがいいという意見もある。
今後は財界人はもちろんだが、クリエイターを巻き込んだ議論が欠かせないといえる。動向を見守っていきたい。
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