伝説のヤラセ番組「川口浩探検隊」の功罪とは? プチ鹿島「演出があるからこそ、やらなくてもいい真剣勝負をしている」

伝説のテレビマンと出会って

奥山晶二郎氏

奥山:『第14章 「俺がテレビだ」伝説のテレビマンは実在した!』では、放送作家・鵜沢茂郎氏のインタビューが独白の形式で描かれています。

鹿島:鵜沢さんの独白は圧巻で、「川口浩探検隊」のような気持ちで当時のことを調査していたら、ラストで本当に未知の怪物に出会ってしまったという印象でした。編集の栗田歴さんと相談して、「これはあまり修正などせずに、そのまま独白形式で掲載しよう」ということになりました。当時のテレビマンならではのオーラをそのまま伝えたかったし、結局のところ、あの時代のテレビのあり方は正しかったのかどうかを、読者に投げかける形で終わらせたかったんです。当時の番組のスタンスとして「金色のコブラがいるとかいないとかじゃない。『いてもいいだろう』っていう考えだから」としつつも、原始猿人バーゴンの捕獲については「さっき『いてもいい』って話したけど、あれは、ただ、『いすぎた』」と話していて、その感覚というか匙加減が絶妙なんですよね。「いてもいいけど、いすぎてはだめ」というのは、「ヤラセ」の問題を考える上での大きなポイントだと思います。

小山:テレビにおいて、広い意味での「ヤラセ」は絶対になくならないと思います。説得力のある絵を撮ろう、この説に根拠を持たせようと思ったら、どうしても演出が入ってくる。「川口浩探検隊」では、例えば蛇を撮影するにしても、すぐにピントが合うとリアリティがないからといって、わざわざブレた感じで撮ったりしていました。本当はちゃんと撮れているのに、ブレた方が視聴者に信じてもらえるんですね。過去に某番組が、納豆の効能についてのデータを捏造したことがきっかけとなって打ち切りになりましたが、あれはまさに「いすぎた」例ですよね。納豆が身体に良いことは本当だし、タレントが「身体に良いですよ」というくらいであれば「いい」。でも、そこに捏造した数字で裏付けしようとしてはだめだと。

鹿島:その点、新聞など旧来のメディアは数字的な裏付けをすごく気にしていて、ちゃんと記事に落とし込んでいますよね。僕は新聞14紙の読み比べが趣味で、その論調の違いなどを楽しんでいるわけですけれど、新聞に限らず、メディアはうまく利用すれば良いと思っているんです。新聞はちゃんとトレーニングを詰んだ記者が集団できちんと裏を取って書いているのだから、そこは信頼すれば良いし、テレビはテレビで鵜呑みにするのではなく、半信半疑で観ていいと思う。鵜沢さんは、当時の撮影の裏側を全部話した上で「俺は、視聴者を信じている」と言っていましたけれど、それは視聴者に判断を委ねているということでもあるのかなと。

奥山:新聞の話でいうと、一番コストをかけているのは社説と書評なんです。社説はなにかを主張しているようで主張していなかったりするわけですけれど、あの短い文章に何人もの人が携わって、時間をかけて徹底的に作り込んでいます。書評に関しても、第一線で活躍する書評家たちを集めて拘束して、珠玉の一冊を選ぶために議論を重ねているんです。Webに掲載してページビューが稼げるような記事ではないけれど、新聞社にとってはコストを度外視して注力している「情熱」の部分であって、そういう新聞社だからできることは続けていかなければいけないと思いました。

「クレイジージャーニー」を観て気づいたこと

鹿島:鵜沢さんは「俺がテレビだ」と言いきってしまうような豪胆な人ですが、インタビューの最後には、毎晩のようにあの頃のテレビ制作の夢を見ると言っていて、それが切なくてたまらなかったです。

小山:昭和のテレビ業界には良いところも悪いところもいっぱいあって、今だと考えられないけれど、飲み会で夜の遅くまでずっと居させられたりするから、「川口浩探検隊」のタクシーチケット代だけで月に何百万とかかったりしていた(笑)。良くも悪くも楽しかったんですよ。

鹿島:最近のテレビ番組をご覧になったりはしますか?

小山:海外に行く情報バラエティなんかを観ていると、例えばナスDが現地の人も食べないようなものを食べたりしているじゃないですか。そういうのは実際、我々もテレビに映らないところでやっていたわけだけれど、本当に腹を壊すからやめた方がいいよ、と思いながら観ていますね(笑)。「川口浩探検隊」はドキュメンタリーではなくて「インディ・ジョーンズ」をやりたかったから、作った絵を観せていたけれど、今はスタッフの現地調査そのものを見せる方がリアルで面白いという風になっていますよね。当時、スタッフが日射病になってかなりヤバかったことがあったんだけれど、あまりに辛そうで逆にヤラセっぽいから映さないということもありました。なにが本当でなにが嘘か、本当にわからなくなっちゃいますよね。

鹿島:「クレイジージャーニー」(TBS)などは、本当の研究者とか探検家に言わば外注しているわけで、そこにスタッフが付いていけば面白い絵が撮れるという形になっていますね。

小山:「クレイジージャーニー」を観ていて面白かったのは、いっさい光の入らない洞窟に入るときに、探検家の方がパウダーを買うんです。なんでパウダーを買うかというと、靴や服が濡れるとぜんぜん乾かなくて、足の皮がめくれてしまうからだと。それ、実は「川口浩探検隊」でもやっていたんですよ。今も昔と同じようなことをしている(笑)。山に登って水がない時は、葉っぱについている朝露を舐めて凌いだりとか、そういうこともたくさんあったんだけれど、撮っている暇がないほど過酷でした。

鹿島:うわー、そのお話もたまらないですね! 次回はぜひ小山さんの解説付きで「川口浩探検隊」の上映会をやりたいです。

■書籍情報
『ヤラセと情熱 水曜スペシャル『川口浩探検隊』の真実』
プチ鹿島 著
発売日:2022年12月22日
定価:1,980円 (本体1,800円)
判型:四六判
内容:70年代後半から80年代にかけ、世界を股にかけ、未知の生物や未踏の秘境を求めた男たち。それが川口浩探検隊。ヤラセだとのそしりを受け、一笑に付されることもあったこの番組の「真実」を捜し求めるノンフィクション。当時の隊員たちは、どのような信念で制作し、視聴者である我々はこの番組をどのように解釈してきたのか。そして、ヤラセとは何か、演出とは何か。当事者の証言から、テレビの本質にまで踏み込む危険な探検録。

出版社公式ページ:https://www.futabasha.co.jp/book/97845753176020000000

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