【直木賞受賞】『地図と拳』小川哲はエンタメ小説界のスター作家になるーー文芸評論家が絶賛する才能

「今回の直木賞は小川哲が“獲った”のではなく、小川哲に“獲ってもらった”とさえ言われています。エンタメ小説界はスター不足で、例えば本屋大賞などは売れる作家を応援することで、出版界全体の売上を上げていこうとする試みだと思います。そうした中で、小川哲は爆発的に売れるスター作家になる資質を持っている。自分が面白いと思う作品を描き続けてもらうだけで、充分に出版界を担う逸材になると思います。

 小川哲はまだ出版されている本の数こそ少ないですが、それは『ゲームの王国』や『地図と拳』などの大作と向き合ってきたからで、昨年末に刊行された『君のクイズ』はかなり短い期間で書かれたと聞いています。また、『小説新潮』には定期的に短編を寄稿しています。長編と短編のどちらも書ける作家で、しかも多作なんです。

 その上、作家らしい風変わりな一面も持ち合わせています。『小説新潮』2022年7月号に掲載された『受賞エッセイ』という作品は、小川哲のような作家が視点人物となっていて、山本周五郎賞の受賞コメントをするという体裁なのですが、書かれていることは嘘なんですよね(笑)。現実にフィクションを織り交ぜるような遊びもする作家で、何を書いても面白くする術を持っている。本当に稀有な作家だと思います」

 エンタメ小説界きってのスターとして、さらなる活躍が期待される小川哲。今回の直木賞受賞をきっかけに、ますますファンを増やしそうだ。

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