『霊媒探偵・城塚翡翠』ドラマ化で大注目! シリーズ最新作『invert Ⅱ 覗き窓の死角』の衝撃
すべてが、ネタバレ。相沢沙呼の「城塚翡翠」シリーズについて語ろうとすると、どうしてもそう言いたくなる。もともとミステリの書評は、トリックやサプライズなど、作品のキモとなる部分を詳しく説明するわけにいかない、面倒なジャンルである。なかでも「城塚翡翠」シリーズは、ちょっと突っ込んだことを書こうとしただけで、ネタバレの危険大。したがって、ぼやかした表現をするしかないのである。
たとえばシリーズ第一弾の『medium 霊媒探偵城塚翡翠』。全四話で構成されており、どれも面白いのだが、注目すべきは最終話のどんでん返し。あまりにも予想外の展開に、ぶっ飛んだ。本当は、各種ミステリ関係のベストランキングで一位を獲得し、さらに第二十回本格ミステリ大賞部門を受賞したという事実が、作品の凄さを証明しているといえよう。
ただし内容から考えて、シリーズ化はないと思っていた。だから、あっさりとシリーズ第二弾『invert 城塚翡翠倒叙集』が出版されたときは驚いた。しかも今度は倒叙物だ。ちなみに倒叙物とは、物語の冒頭で犯人や犯行の様子を明らかにした、ミステリの一ジャンルのこと。読者は最初から犯人が分かっており、探偵役がいかにして真相を暴くかが、メインの読みどころとなる。作品は中篇三作で構成されており、倒叙物としてよく出来ているが、オーソドックスな作りだと思いながら読んでいたら、最終話で大技が炸裂。またもや、ぶっ飛んでしまったのである。
こうなるとシリーズ第三弾への期待は、否応なく高まる。その期待に作者は、『invert Ⅱ 覗き窓の死角』で、見事に応えてくれたのだ。今回も倒叙物で、収録されているのは中篇「生者の伝言」と、短めの長篇「覗き窓の死角」である。内容に触れる前に、主人公の城塚翡翠とその相棒の千和崎真を紹介しておこう。
城塚翡翠は、ゆるふわ美人で、ドジっ娘。ただし口調も態度も、どこから演技なのか分からない。本書では、スピリチュアル・カウンセラーを名乗っているが、特別な力があるかどうかも不明だ。なぜか警察と強いパイプがあり、幾つもの事件を解決している。その翡翠に雇われているのが千和崎真だ。主な仕事は家政婦だが、翡翠が事件に乗り出すと助手を務める。また副業として、私立探偵をしている。翡翠とは対照的な、中世的な美人だ。
「生者の伝言」は、友達の別荘に不法侵入していた夏木蒼太という少年が、友人の母親を刺し殺してしまったと、終始狼狽する場面から始まる。そこにやってきたのが、車の故障により、雨宿りをしようとした翡翠と真だ。美人二人の存在やラッキー・スケベにドキドキながら、二階に死体があることを隠そうとする蒼太だが……。
この作品は終盤の捻りが決まっており、よく出来たミステリになっているが、前菜といっていい。本書のメインは「覗き窓の死角」だ。お互いにミステリが好きということで、翡翠は江刺詢子という女性と友達になった。同性の友達がいなかったので、はしゃぐ翡翠。だが詢子は、いじめで死んだ妹の仇として、フリーランスモデルの藤島花音を殺し、翡翠をアリバイの証人とするのだった。詢子を信じようとしたが、ささいな気づきから、彼女が犯人だと確信した翡翠。複雑な思いを抱きながら、詢子を追い詰めていく。
詢子のアリバイ・トリックもよく考えられているが、もっとも凄いのは彼女を犯人と確定する証拠である。翡翠と詢子の心理戦の果てに、明らかになる証拠。それにより今まで見えていた風景が反転する。驚天動地とはこのことか。しかもその後、さらなる事実により、読者に追加ダメージを与えてくれる。本当に凄い作品なのだ。