『怪と幽』編集長が語る、妖怪と怪談それぞれの楽しみ方 「お化けに真摯に向き合わなければならない」

お化けに真摯に向き合わなければならない

――創刊時に似田貝さんは『怪と幽』について、前半は『怪』、マンガを挟んで後半は『幽』の構成と発言されていました。

似田貝:混ぜ方がわからなかったこともありますけど、今もそうしています。今後は、徐々に混ぜていってもいいのかもしれません。

――誌面には、小説、マンガ、評論研究、読みものといろいろ詰めこまれていますが、配分についてはどう考えていますか。

似田貝:まずはじめに読者が求めるものがあり、次に雑誌にかかわる編集者・スタッフ・作家陣の想いもある。そのうえで商業誌としてある程度の売上げは必要だし、書籍を生産する役割もあるので、それらの狭間でバランスをとっています。個人的な好みならばもうちょっと研究パートを増やしたい。怪談実話ももっと読みたいです。

――10号の「呪術入門」特集では、文化人類学者、民俗学者の小松和彦さんのインタビュー記事から始まっています。

似田貝:小松さんにこうした形で御登場いただくのは、とてもありがたいことです。たとえば『ムー』は、いきなり荒唐無稽な企画を置いても、最終的に読者のリテラシーに期待しているというか、本当かどうかは君たち次第です(笑)というスタンスですよね。『怪と幽』はそこまで冒険できないので、読者にある程度の品質を保証しなくてはなりません。そのうえで遊びを入れたいんです。この特集では『呪術廻戦』にかこつけて、「呪術」の力で魚を釣って「海鮮」丼を作る記事があります。これを冒頭でやったらたぶんダメで、はじめに小松さんがきちんと学術的に語ってくれるからできるんです。編集する立場としては、どちらも楽しいですけど。

――『ムー』の話が出ましたが、2号で「ムーと怪と幽」という特集を組んでいましたね。

似田貝:『怪と幽』は創刊までの準備期間が半年くらいあって、3号までの特集は創刊時点で決めていたんです。1号は『怪』と『幽』が合体したことを知ってもらうために、妖怪と怪談の違を読者に伝える号でした。で、実際に『怪と幽』はなにをやるのかとなる2号で、『ムー』とコラボしました。『幽』でも『ムー』とのコラボ企画はありましたが、『幽』のフィールドに寄せた企画でしたね。創刊したばかりの『怪と幽』を『ムー』方向へ寄せてみることで、この雑誌はいろいろやるんだと読者に伝われば、と考えたんです。1号は少しかしこまっていたけど2号でそれを崩してみる感じでしょうか。当初、『怪』読者からは「『怪』じゃない」、『幽』読者からは「『幽』じゃない」との声が聞こえてきましたね。準備段階からそういわれるだろうと予想した通りになりました。だから、なるべく「べつの雑誌なんだな」と感じてもらいたかった。3号では「妖怪天国 台湾」特集を組み、台湾へ行って現地の人の話を聞きました。これは完全に私の好みですけど、2号ではやりたくなかった。

――今回、年表をみて気づいたのは、KADOKAWAでは『怪と幽』創刊の2019年に横溝正史ミステリ大賞と日本ホラー小説大賞を横溝正史ミステリ&ホラー大賞に統合したことです。企業グループとして、いろいろ見直した時期だったんですね。KADOKAWAには横溝的な怪奇色のあるミステリ、ホラー大賞的なホラーといった伝統がありますが、妖怪と怪談の『怪と幽』はそれらと親近性はあるけど、またべつのカテゴリーというか。

似田貝:『怪と幽』をホラー雑誌と認識している方って、けっこういるんですよね。もちろんホラーの要素も取り入れていますけど、ホラー雑誌を作っているつもりはないんです。『怪と幽』はスタッフが少なくて、取材相手や執筆依頼の人選は私が決めることが多い。それだとネタも減ってきますし趣味嗜好が偏ってしまいます。だから、いろんな人にアイデアをもらいながら作りたい気持ちがあって、オフィスにいる編集者に声をかけるんですけど、「お化けに興味がないんです」「怖いのは無理なんですよ」といわれがちです。でも、今のエンタメ作品にはお化け的な要素が、いくらでも詰まっています。ホラーというとジャンルになりますけど、お化けのエンターテインメントって、それこそジブリやディズニーの作品も含まれるし、純文学でだってその種のテーマの作品はけっこうある。だから、わりと広くレンジをとっているつもりです。

――この記事が出る頃に発売の11号まで作って『怪と幽』のあるべき姿は見えましたか。

似田貝:見えません(笑)。号を追うごとに変わっていくというか、こうあるべしと決めつけたくもない。サラリーマンなのでずっと私が編集長でいるわけにもいきませんし。だから、べつの人が編集長になった時には、その人が好きに変えればいいと思いますが、ある程度のガイドラインはあった方がいいんですかね……。私はお化け好きですけど、『怪と幽』はあまりマニアックになりすぎないよう気を付けています。ひと昔前と違って、マニアックな情報は書籍やネットを通じていくらでも入手できるわけですから、ライトな人でも楽しめる本作りを目指しています。マニアたちの視線は常に感じつつ。そのためにもお化けに真摯に向き合わなければならない。

――最新号は第1特集が「悪魔くんを求め訴えたり 水木しげる生誕100年」。水木作品のなかでもなぜ『悪魔くん』を選んだんですか。

似田貝:『怪と幽』のひとつのルーツは水木さんがメインだった『怪』だし、生誕100年は素通りできません。とはいえ、水木さんは『怪』でしっかり特集されたし、よそ雑誌の企画とかぶってもよくない。ただ「鬼太郎」と並ぶ水木さんの代表作「悪魔くん」は意外なほど特集されていなかったので決めました。数々のバージョンが存在する「悪魔くん」ですが、誕生の背景には、貧乏だった頃の水木さんが抱いた社会への怨みがあります。主人公の悪魔くんが作ろうとする「千年王国」は、老いも若きも貧乏人も体が悪い人もみんなが平和に暮らせる平等な世界。作中には様々なメッセージが込められています。貧困や差別に苦しむ人々が溢れ、世界中が混迷を極める現代にこそ必要な物語です。

 また、小野不由美さんの建築怪談『営繕かるかや怪異譚 その参』の刊行を記念して、第2特集では「営繕かるかや怪異譚」シリーズを紹介しています。ほかにもはハード・ロック・バンド「人間椅子」の和嶋慎治さんによる初の小説「暗い日曜日」や、『“それ”がいる森』でホラー映画初主演を務めた相葉雅紀さんと中田秀夫監督の対談も掲載しています。こうした方々の力を借りて少しずつ『怪と幽』を知ってもらいたいですね。今後もなるべくいろんな方向に間口を広げていくために、これまでやってこなかったこと、新しい企画に挑戦して、じわじわとお化け好きを集めてゆきたいです。

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