『元彼の遺言状』『競争の番人』の次は“先祖を探す探偵”がヒロインに 新川帆立、最新作『先祖探偵』を読む

 そして第5話「棄民戸籍とバナナの揚げ物」で、自身の出自の手掛かりらしきものを得た風子は、邑楽町の隣にある大泉町に向かう。ラストで明らかになる風子が捨てられた理由に、驚くと共に切なさを感じた。しかし一方で、人は孤独なのが当たり前だと思っていた風子は、人の縁の中でしか人は生まれないものであり〝それは鬱陶しい蜘蛛の巣であるようでもあり、大海に投げ出された救助ロープのようでもある〟と考えるようになるのである。

 そういえば、角川春樹事務所のPR雑誌「ランティエ」2022年9月号に掲載されたインタビューで、作者は「家族というか、土着的なものからの抑圧みたいなものを感じて暮らしてきたんです。(今でも)逃れられない生まれとか土着とか、故郷の鬱陶しさと有難さみたいなものがないまぜになっている」といっている。新川作品は、親子の関係が意外なほどしっかりと描かれているが、ここに理由があるのだろう。そしてその想いが、現時点でもっともストレートに表現された物語が、本書になるのではないか。だから、新川帆立という作家を語る上で、欠かすことのできない重要な作品といえるのである。

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