自炊料理家の山口祐加が語る、料理を簡単に続けるコツ「真面目に考えすぎず、気楽にやっていい」

料理を教えることで人生を変える 


――自炊のことを話す時に「大したもの作ってないよ」って言ってしまう人、多いですよね。私も言ってしまいがちなんですが。 

山口:それなんですよ。言葉を選ばずに言えば、料理って呪いに満ちていると思っていて。その呪いを解くのが私の仕事なのかなって思ってます。本当に、みんなが自分を卑下しちゃうのが、なんでなんだろうって思って。レッスンに来てくれた方には、まず、何に対してネガティブな感情があるのかってすごく掘り下げますね。何を食べて、どんな気持ちになるのか、食べるのが好きなのか、とか。 

 レシピを見ないと料理ができないから、帰り道のスーパーで何を買ったらいいのか呆然としてしまって、結局惣菜を買ってしまう。それで「今日も自炊できなかった」って自己嫌悪におちいる。 

 それが毎日積み重なっていくと、自分のことが嫌いになっちゃうと思うんですよね。だからそれを「できた」に変えていくことができれば、結果的にものすごいプラスになるなと思って。だから私は料理を教えていますが、本当は人生をちょっとずつ変えてるんだな、っていつも思ってます。 

――たしかに。自炊って節約文脈でも語られがちですけど、それ以上に自分で自分の食べたいものを作れるという。 

山口:そうなんです。生きてて、働いてると自分ではどうしようもできないことっていっぱい起こるじゃないですか。でも料理だったら、お肉も野菜もだいたいいつもスーパーにあるし、ネットスーパーでも頼めるし、レシピはたくさんネットにある。自分のお財布の範囲内で、自分の使える時間内で、自分の食べたいものを作れるんですよ。限られた範囲ではあるけれど、その中ならなんでも自分の好きなようにできるのが自炊だと思います。 

料理を楽しむ人を増やし、幸せのボトムアップをしたい

――一人暮らしの人でよく聞くのが、「自炊したいけど食材を余らせちゃう」っていう悩みですね。 

山口:食材が「余ってしまう」かどうかはまた、気持ちひとつなのかなとも思いますが、もしそう考えているんだったら、そもそも買うものを少なくした方がいいと思います。例えばナス1パックだけ買って、ナスだけで料理することもできる。焼いてみたり、煮てみたり。あとはポン酢と醤油と塩、味噌とかがあれば、なんとなくおかずはできるわけで。そこに肉とか魚とかが1つつけば、超立派なご飯ができると思うんです。 


――なるほど。メニューから考えてしまうから「食材が余る」んでしょうか? 

山口:そこも、人によると思うんですよ。メニューから考える人と、食材から考える人、どっちが心地よいかはその人による。ただ、「冷蔵庫の中にあるもので何かをパパッと作る」というのは経験値の蓄積とかがあるので、そこをうまく伝えていくのが本当に難しいなって思っています。 

――料理ってどうしても「こうあるべき」みたいな論調が、他の掃除や洗濯などの家事よりも強いと感じますが、山口さんはどう思われますか。 

山口:日本人がそこに美を見出してるんじゃないかなと思います。近年の民芸ブームもそうですけど、日本人はそもそも衣食住に対しての美意識が高いなと感じています。けど、食べることは1日2〜3回もやらなくてはなりません。だから私は、「料理はもっと真面目に考えすぎず、気楽にやっていいんだよ」と伝えていきたい。料理を好き勝手に楽しむ人が増えたら、世の中の幸せのボトムアップができるんじゃないかなと感じてます。 

 やっぱり食事って毎日口に入るものだし、日本人は世界の中でもめちゃくちゃグルメで、食べ物にこだわりがある国民性だと思うんです。でも極端にこだわると苦しくなっちゃう。私は基本的に、「食べてれば死なない」と思ってるんですよ。ハイレベルな家庭料理は作らなくてもいい。だから例えば、凝った料理を食べたくなったら外食すればいいし、「これが食べたい、作りたいな」って思ったら作ればいいし。ただ自分で作れば、味の濃淡も好きにできますし、「自分が心地いいもの」を食べられますからね。そこは外食で買えない部分だと思います。 

――山口さんは本当に料理がお好きなんですね。 

山口:そうですね。料理を奪われたら、死んじゃうかもしれません(笑)。季節の旬のものを使った味噌汁を今日飲みたいとか、冷蔵庫の中のものをかき集めて作るカレーとか、家じゃないとできないし、料理していることがとにかく楽しいんですよね。レッスンをする時も、「楽しい気持ちで教える人に教わったら楽しくなるはずだ」と思って常に機嫌良く、ポジティブに取り組んでいます。

 
――最後に、山口さんおすすめの本があれば教えてください。 

山口:料理研究家の瀬尾幸子さんの『これでいいのだ!瀬尾ごはん』(ちくま新書)ですね。卵かけバター醤油ごはんだって立派な料理だよって、頑張らなくていいよっていう本です。今日私が言ってることはこの本とほぼ同じことだと思います。日本人はみんな、頑張りすぎなんですよね。頑張り方を考えた方がいいし、入れどころと抜きどころをバランスよくやっていければいいと思ってます。だから疲れて帰って作ってもご飯がうまくできないって悩んでる方には、「寝てください」ってアドバイスします(笑)。「寝たら明日になって、またお腹すいてるから。そうしたらまた作って練習していけば、きっとうまくなります」って。

関連記事