イギーはなぜスタンド使いの野良犬になった? ジョジョのスピンオフ小説『野良犬イギー』が熱い
漫画の世界を舞台にして、作家が独自の小説を書く。ノベライズとは一線を画した、スピンオフ小説が増えている。しかも作家が豪華だ。漫画で育ってきた世代が作家になったことで、喜んで漫画のスピンオフ小説を引き受けているのだろう。
なかでも豪華きわまりないのが、荒木飛呂彦の人気作『ジョジョの奇妙な冒険』(以下『ジョジョ』)のスピンオフ小説である。『The Book ~Jojo’s Bizarre Adventure 4th Another Day~』の乙一、『恥知らずのパープルヘイズ ~ジョジョの奇妙な冒険より~』の上遠野浩平、『JOJO’S BIZARRE ADVENTURE OVER HEVEN』の西尾維新、『JORGE JOESTER』の舞城王太郎。まさに錚々たるメンバーだ。そして乙一が、再び『ジョジョ』の世界を小説にした。『The Book』は、第四部の後日譚だが、こちらは第三部の前日譚である。
『ジョジョ』の第三部は、主人公の空条承太郎を中心にしたスタンド(幽波紋)使いのメンバーが、ジョースター一族と深い因縁を持つディオを倒すために、敵のスタンド使いと戦いながら、旅をするというストーリーだ。スタンドとは、それぞれの人物固有の特殊能力の総称である。
さて、人物と書いたが、スタンド使いは人間だけではない。承太郎一行に助っ人として途中から加わるのは、ボストンテリアなのだ。名はイギー。好物は、珈琲味のチューイングガム。性格に問題があり、人の髪の毛を大量にムシり抜くのが好きで、そのときに顔の前で臭い屁をする。砂を操る「愚者(ザ・フール)」のスタンドは強力だ。
荒木飛呂彦が上手いのは、以前のエピソードで、敵方にオランウータンのスタンド使いを登場させていることだ。これにより犬のスタンド使いが、すんなりと受け入れられるようになっている。
さらにいえば第三部は、承太郎一行と敵のスタンド使いとの戦いがメインであり、展開はスピーディーだ。そうした物語の疾走感を削がないためだろう。イギーの過去も非常に簡単に説明される。「ニューヨークのノラ犬狩りにもけっしてつかまらなかったのをアヴドゥルが見つけてやっとの思いでつかまえたのだ」と、承太郎の祖父のジョゼフ・ジョースターがいうくらいなのである。ちなみにアヴドゥルとは、承太郎たちの仲間のモハメド・アヴゥドルのこと。エジプト人の占い師で、炎のスタンド「魔術師の赤(マジシャンズレッド)」を使う。
かつて、イギーとアヴドゥルの間に何があったのか。この点に乙一は着目し、第三部の前日譚を創り上げた。ニューヨークで【野良犬狩り】の手を逃れ続けている、奇妙なボストンテリア。『ジョジョ』でお馴染みのスピードワゴン財団によれば、その犬はスタンド使いだという。そのことを知らされたアヴドゥルは、スタンド使いを次々と支配しているディオに先んじて、ボストンテリアを捕えようとする。