他者と身体や体験を共有できる時代に? 気鋭の工学者・玉城絵美が語る「ボディシェアリング」という技術

人間は「死」から解放される?

――「違う性の立場を体験できれば、もっと理解することができる」というジェンダーからの視点も興味深かったです。 

玉城:私も男性の体を体験させてもらったことがありますが、力がすごく出るのに驚きました。ジェンダーについては、一番身近に「差」を意識できるところなので、もっと主体的に動いてやっていこうかなと考えています。 

 たとえば男性による妊婦体験でも、単におもりをお腹につけてみるだけではなく、ボディシェアリングによって能動的に階段を降りてみたりとか、公共交通機関を利用してみるなど、積極的に体験してみてほしいと思っています。それから女性側にも、たとえば満員電車内で男性ならではの悩み、痴漢と間違われる恐怖などを感じてもらえるといいんだろうなと。 

 「差」を体験するという意味では、大人と子供、文化や国が違う人同士などの相互理解のためにも、ボディシェアリングは役立つと思っています。濃い体験というのは知識や知恵としてその人に蓄積されていきます。 

――いずれ、「死からの解放」も起こりうるとありましたが、これはどういうことなんでしょうか? 肉体が滅びたあとも、自我や意識が残るということなのでしょうか。 

玉城:「知識」と「プロセス」は残りますが、自我や意識といったものは現時点では「物理的には観測されていない」ものなんです。物理現象として表現されることは証明されていきますが、現時点では魂魄や霊魂、意識といったものはスピリチュアルな領域にとどまると考えています。 

 AIが人間の模倣をして、それに人間が気づくかどうかをテストする「チューリング・テスト」がありますが、「他者が人間だと認識したら、それは人間なのではないか?」ということです。たとえば、私とまったく同じような仕草をするし、受け答えも「玉城絵美がいかにも言いそうなこと」を再現できるAIが登場したら、それは「本物の玉城絵美」なのか? という疑問にあたります。私自身が死んでも、そのAIが残れば、「他者にとって玉城絵美は死んでいないのではないか」という結論につながってくることもあり得ます。それを「死からの解放」と呼んでいます。

想像力が未来を創り出す

――今後かなりのスピード感を持って技術開発をされていくとも書かれていましたが、ボディシェアリングが実装された世界では玉城さんはどう過ごされますか。 

玉城:絶対に家から出ないですね(笑)。家から出ないで、1日ずっと世界中を旅していると思います。アメリカに行ってMOMAで前衛絵画を見て、アフリカに行ってキリンを見て、水中ロボットで海の中を体験するのもいいですね。 

――そんなに毎日濃い「体験」をしたら、人間の脳はどうなってしまうんでしょうか。 

玉城:江戸時代、農民はほとんど自分の村から出ることなく、季節の祭りぐらいがイベントだったわけですよね。それと現代を比べると、読む文章量も摂取する情報量も圧倒的に増えました。でも人間は全然平気です。人間の脳の限界はまだよくわかっていなくて、情報量的にもまだまだ人間はいけるのでは、と言われています。限界に挑戦したらどうなるかな、というのも少し気になりますけどね。 

――未来を作っていくのには、物語とフィクションが大事という言葉も印象的でした。 

玉城:すべてのものは、人間の想像力がないと作れません。その想像力を明確化するには、バックグラウンドがしっかりと考えられた物語が必要です。想像力を外部にアウトプットし、その結果をインタラクションして新しいもの、未来を作っていく。その繰り返しなのではないかなと思っています。

関連記事