『同志少女よ、敵を撃て』『六人の嘘つきな大学生』『香君』……4月期ベストセラーは“考えさせられる”小説がランクイン

4月期ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(4月12日トーハン調べ)

1位 逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)
2位 香月美夜『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身8」』(TOブックス)
3位 伊集院静『もう一度、歩きだすために 大人の流儀11』(講談社)
4位 浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(KADOKAWA)
5位 上橋菜穂子『香君 上 西から来た少女』(文藝春秋)
6位 上橋菜穂子『香君 下 遥かな道』(文藝春秋)
7位 中村颯希『ふつつかな悪女ではございますが4~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』(一迅社)
8位 朝井リョウ『正欲』(新潮社)
9位 青山美智子『赤と青とエスキース』(PHP研究所)
10位 林真理子『奇跡』(講談社)

 4月12日の文芸書ベストセラー、1位は本屋大賞で見事大賞を受賞した『同志少女よ、敵を撃て』。直木賞ノミネートに続き、デビュー作にして大躍進の本作だが、第2次世界大戦中の独ソ戦(ドイツVS旧ソビエト)をテーマに扱っていることから、ふだん小説を読まない人たちの注目を集めていることも大きいだろう。

 4位にランクインしたのは、同作と同じイラストレーター・雪下まゆが表紙を手掛ける『六人の嘘つきな大学生』。こちらも本屋大賞ノミネート作品だが、2位を受賞した『赤と青とエスキース』、4位『正欲』をおさえて上位に躍り出たのは、こちらも“就活”という誰しも身近に感じるテーマゆえに、幅広い読者の目に触れたからかもしれない。

 著者の浅倉秋成は、もともとファンタジックな作風で知られる作家だった。もっとも注目を浴びたのは、本格ミステリ大賞小説部門と日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門の候補作となった『教室が、ひとりになるまで』。嘘を見破る能力を得てしまった主人公が、なんらかの特殊能力を使って同級生を自殺に見せかけて殺した(かもしれない)事件の真相を探っていくという作品だった。ほかにも、18歳を何度も繰り返し高校生でありつづけているかつての同級生の謎を追う『九度目の十八歳を迎えた君と』など、いっぷう変わった舞台設定を敷くことが多かった浅倉が、はじめて、特殊設定を排除して挑んだのが『六人の嘘つきな大学生』なのである。

 初任給は50万円という話題のIT企業の最終面接に臨む6人の大学生。最初は全員そろっての内定もありうると言われていたのに、突然、採用されるのは一人だけという無慈悲な現実を突きつけられ、さらに「誰がもっとも内定にふさわしいかを論議する」というお題を最終面接で出されてしまう。そんななか、会議室におかれた六通の封筒が発見され、そのひとつを開封すると、6人のうちのひとりが人殺しであるという告発文が出てきたのだったーー。残り5通、ほかの5人の罪が暴かれるかもしれないその封筒を、果たしてディスカッションに使用するべきか、いなか。そもそも誰がそんな封筒を用意したのか。優秀で、人当たりがよく、チームワークにも秀でていた6人の仮面が、少しずつ、ぼろぼろと、崩れ落ちていく……。という、心理戦を描いた同作。

 読んでいてなによりもおそろしいのは、誰にとっても、まったく他人ごとではないという点だ。9割は清廉潔白に生きていても、ほんの1割おかしてしまった間違いが、なぜ今、という局面で追い詰めてくる。自業自得、と言ってしまえばそれまでだけど、安易に彼らを断罪しながら読み進めてしまうと、ラストで思いもよらぬ足のすくわれ方をするので要注意。

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