歴史時代小説に“凄い新人”現る! 夜弦雅也『高望の大刀』の大胆不敵な荒技

 歴史時代小説の世界に、凄い新人が現れた。第十三回日経小説大賞を受賞した『高望の大刀』の作者・夜弦雅也だ。ちなみに作品は、桓武帝の曾孫にして、平将門の祖父。桓武平家の祖である平高望の波乱の人生を、豊かな空想を交えて描いた歴史活劇である。

 平安時代初期。京の都には帝の血を引く子孫が多数おり、よい暮らしをしている者もいれば、貧乏生活をしている者もいた。桓武帝の曾孫の高望は貧乏側だ。二十三歳だが無位無官の高望は、官位を求めて太政官に窮乏を訴えた。だが話の流れで、摂政右大臣·藤原基経から「弓で戦う衛府の武官に大刀で勝てば官位を与える」といわれた。かくして大刀で弓と勝負することになった高望。まず大刀を贖う金を稼ぐため、賭双六の博奕所に行く。そこで相手になったのが、鬼を弓で射殺しと噂される藤原利仁だ。

 賭双六に勝ち、さらに利仁と仲良くなった高望。大刀の求め先で、俘囚(帰順した蝦夷)の女刀工·裳知九と知り合う。その後、俘囚の叛乱を鎮圧して都に帰ってきた軍勢に向かい、叛乱に参加した兄のことを聞く裳知九と再会。軍勢に踏み殺されかけた彼女を高望は助ける。その高望に声をかけたのが、軍勢の中にいた平好風だ。高望と同じ桓武帝の三代孫だが、従五位下の官人である。この時点で高望は知らないが、彼の勝負の相手だった。

 俘囚の悲しみを抱く裳知九に、今までにない大刀を打ってもらった高望。利仁と訓練を重ね、勝負に備える。だが、弓と大刀の勝負は意外な展開を迎え、彼は罪人として上総に遠流されるのだった。

 平高望は、実在人物である。とはいえ経歴に不明な点が多い。作者はそれを利用し、大胆な物語を創り上げた。弓と大刀の勝負までに、たっぷりと枚数を使いながら、高望と利仁の友情や、雅子という女性との恋、そして彼が目指した世界にいる貴人たちの醜貌を、巧みに表現していく。裳知九の打つ大刀が、原初の日本刀ともいうべきものになっているのも、愉快なアイデアだ。

 そして肝心の勝負で、高望の鬱屈した思いが爆発。この場面は燃えた。ただしストーリーは、まだ半分。罪人として上総に送られてからは、厳しい日々の描写が続く。過酷な状況の中で、人間の誇りと優しさを失わない、高望が魅力的だ。雅子とはタイプの違う滋子という新たなヒロインも登場。高望との愛憎のドラマも読みどころになっている。そしてある騒動を経て、物語は大きくうねりながら、クライマックスに向かうのだ。

 先に、高望の経歴には不明な点が多いと書いた。しかし、はっきりと分かっていることもある。それをご存じの人なら、後半の展開に、大いに驚いたことだろう。いったい史実との整合性をどうするのかと、心配になったかもしれない。この点を作者は、あっさりと解決する。荒技というべきか。物語だからこそ可能な、大胆不敵な方法だ。

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