逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』や朝井リョウ『正欲』など話題作続々! 本屋大賞ノミネート作10作品を全解説
先日1月20日、「2022年本屋大賞」ノミネート作が決定した。本屋大賞とは、「売り場からベストセラーを作ろう」という思いから2004年に設立された、書店員の投票だけで選ばれる賞である。小川洋子『博士の愛した数式』(新潮社)から始まり、湊かなえ『告白』(双葉社)、近年では瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)など、過去の受賞作ラインナップを辿れば、大賞作の多くが後に映画化された、誰もが知る名作揃いであることに驚かされるだろう。今年はどの作品が選ばれるのかが気になるところだが、大賞が発表されるのは4月6日。まだあと2ヶ月近くある。
全国の書店員たちが「これを推したい!」と各々選んだ3作品の総計である、ノミネート作10作品は、どれも2021年の話題作であり、バラエティーに富んだ秀作揃いだ。残念ながら投票資格は書店員のみではあるが、全て読んで予想を立ててみてもよし、ずっと気になっていた本を、これを機に手に取ってみてもよし、好みの作風からセレクトするもよし、いろいろな楽しみ方がある。近所の本屋で「本屋大賞ノミネートフェア」コーナーを眺める際のヒントになれば幸いだ。
まず、先日第166回直木賞を受賞した米澤穂信『黒牢城』(KADOKAWA)は、荒木村重と黒田官兵衛を主人公にした安楽椅子探偵もの。とはいえ、官兵衛を土牢に幽閉した村重が、官兵衛に、城内で起こる事件の謎を解けと命じるわけで、2人の関係は極めてスリリングだ。荒木村重という武将の数奇な人生の謎に迫ることもできる、ミステリー好き・時代小説好き両者の血が騒ぐ一品。
続いて独ソ戦を描いたデビュー作にして超話題作、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)。少女セラフィマが、ある日突然平穏な日常を奪われ、訓練を受け、女性だけの狙撃小隊の一員として、地獄のような戦場をひた走る。ヒロインの視線だけでなく、複数の視線から描かれることによって浮き彫りになる「戦争が人間をどう変えてしまうのか」を考えさせる作品だ。
朝井リョウ『正欲』(新潮社)を強烈に好きと感じるか、「これは私だ」と思うか、それとも見たくないものを見たような感じがして、目を逸らすか。それは読者次第である。「多様性」という言葉を安易に使おうとするのではなく、私たちが抱える、うまくカテゴライズすることができない、十人十色の「人と少し違う」感覚と、それによって生まれる孤独に、この本は静かに寄り添う。
西加奈子『夜が明ける』(新潮社)は、知る人ぞ知る俳優、アキ・マケライネンにそっくりな高校生、通称アキと、彼を見出した同級生「俺」の、高校時代から30代までを描く。現代版フランケンシュタインのようなピュアな大男・アキと、一見器用に人生を歩んでいきそうに見えた「俺」を、現代社会の様々な問題が蝕んでいく。
『夜が明ける』が日本の現代社会における男性の受難を描いているとしたら、町田そのこ『星を掬う』(中央公論新社)は、現代社会における女性の受難を描いている。昨年の本屋大賞受賞作『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)よりもさらに深く掘り下げられた、母親と娘、さらにその母親の確執と愛憎の物語。
青山美智子『赤と青とエスキース』(PHP研究所)はメルボルンの画家が描いた1枚の絵画を中心にした4章からなる連作短編集だ。登場人物たちの悲喜こもごも、人生の断片の傍らには、常にその「絵」が佇んでいる。と思いきや、これまで見ていた世界が鮮やかに一変する、最高に幸福な仕掛けあり。
一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社)は、表紙の可愛らしさに惹かれて手をとると火傷する、小さな伏線が散りばめられた珠玉の連作集。時折垣間見える人間のグロテスクさに驚かされる。この、素晴らしき「小さな世界」に閉じ込められた愛おしい人たち。それぞれに孤独を抱えた人々は、例えそれが許されない関係だったとしても、そっと手を伸ばし合わずにいられない。