乾ルカ×モモコグミカンパニーが語る、スクールカーストとの向き合い方「同じ出来事も人によって違う捉え方になる」
高校卒業から10年後、クラスメイトたちに同窓会の知らせが届く。目的は、卒業のときに校庭に埋めたタイムカプセルの開封。SNSアカウントも立ち上げられ、近況報告や高校時代の思い出話で盛り上がるが、そこに「岸本李矢さんを憶えていますか」という書き込みが。それは、いじめによって転校した生徒の名前だったーー。
『あの日にかえりたい』(2010年)、『メグル』(2010年)、『てふてふ荘へようこそ』(2011年)などで知られる乾ルカの新作『おまえなんかに会いたくない』は、スクールカースト、いじめ、SNSなどを背景に、高校時代とその10年後を描いた青春群像劇だ。
同書に興味を抱いたのは、本好きのアーティストとして知られ、自らエッセイも執筆している“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのモモコグミカンパニー。多くの楽曲で歌詞の執筆も担当している彼女にとって、読書の時間はかけがえのないものだという。また、自身もスクールカーストに悩んだ経験があるため、『おまえなんかに会いたくない』は登場人物たちの境遇に自身を重ね合わせて読むことができたようだ。
そこでリアルサウンド ブックでは、乾ルカとモモコグミカンパニーの対談を企画。『おまえなんかに会いたくない』を軸に、本作の執筆動機や感想、高校時代の人間関係、SNSに対するスタンスなどについて語り合ってもらった。(森朋之)
モモコグミカンパニーはスクールカーストとどう向き合ってきた?
――乾ルカさんの新作「おまえなんかに会いたくない」は、高校時代にいじめを受けていた生徒が、卒業から10年目の同窓会で復讐を企てるというストーリーの青春群像劇です。モモコさんの学生時代には、スクールカーストという言葉は存在してましたよね?
モモコグミカンパニー(以下、モモコ):ありましたね。私は中学時代のカーストがイヤで、あえて校風が自由な高校を選んだところもあって。中学のときはマスコット的な存在になろうとしてたんです。
乾ルカ(以下、乾):みんなに可愛がられるような?
モモコ:可愛がられるというより、イジられてましたね。本当はそれもイヤだったんですけど、そういう役でいるのがいちばんラクだったので。自分の立ち位置を自分で下げて、誰からも嫌われないけど、すごく仲がいい人もいないというか。そうなるように操作しようとしてました。上手くやれてなかったけど。
乾:私の学生時代にはカーストという言い方はなかったのですが、クラスの上下関係はあって、自分で立ち位置を作ることができなかったんです。当時、地位の高い人達はいわゆる不良で、とても怖くて。ただただビクビクしながら過ごしていました。モモコさんのように自分でポジションを作れるのはすごいと思います。
モモコ:ありがとうございます……って言っていいのかな(笑)。私の場合、転校が多かったせいもあると思うんですよ。まず小5の2学期に東京から新潟に引っ越したんですが、「東京人が来た」って、ちょっと遠い存在みたいな扱いをされてしまって。
乾:「東京人」って言われても困りますよね。
モモコ:そうなんですよ。もしかしたら「私たちのこと、バカにしてそう」と思われてたのかもしれないけど、けっこう大変でした。1回、靴を隠されたこともあって、「これ、テレビで観たことあるやつだ」と思ったり(笑)。中2の二学期に東京に戻ったんですけど、カーストがガッツリ固まってるなかに入っていくのも大変で。そのあたりからですね、クラスのなかの立ち位置に敏感になったのは。
――『おまえなんかに会いたくない』を読んで、学生時代の記憶が蘇った?
モモコ:そういう瞬間もありました。当時のことを思い出しながら、「もしかしたら、あの子はこういうことを考えていたのかも」って、心の中を覗けた感じもあって。
乾:嬉しいです。狙っているわけでなく、「そうだったら嬉しいな」というレベルの話なんですが、これまで出会ってきた人と似てるとか、過去のことを思い出してくれたらいいなとも思っていたので。
登場人物でもっとも共感したキャラクターは?
モモコ:乾さんは、どうして本作を執筆しようと思ったんですか?
乾:最初の打ち合わせは3年くらい前ですが、私が以前「自分はいつも青春もの、友情ものを書いているつもりです」と申し上げたことを担当編集者が覚えていてくださって。その場で青春群像劇を書くことが決まりました。その後、編集者と高校時代の話をするなかで、過去の苦い記憶が掘り起こされたんです。あまり話したくないような思い出もあったのですが、編集者と会話のキャッチボールをするなかで、「そういえばこんなこともあった」と思い出してきて、登場人物たちも少しずつ見えてきました。
モモコ:どんどん核心に迫っていく感じが面白かったです。ミステリーっぽいなって。
乾:そうかもしれないですね。『メグル』を担当してくださった編集者に、「すべての小説はミステリーになりうる」と言われたことがあって。今回の小説はミステリーとは言えないと思いますが、“謎”は読み進めていく原動力になるのかなと。じつは第一稿は、もっとストレートな書き方だったんです。その後、「ここをボカしたほうが“謎”らしくなるかな」というふうに変えていきました。
モモコ:そうだったんですね! 『メグル』にも、最初のお話(「ヒカレル」)に都市伝説みたいな内容があって。今回の小説に出てくる“遺言墨”も、都市伝説ですね。
乾:はい。『メグル』もそうですけど、以前の作品には、日常から少し離れた物語や異世界を題材したものもがいくつかあって。“遺言墨”は、その名残ですね。もちろん、私の勝手な創作なんですが。
モモコ:え、そうなんですか? すごくリアルだったから、自分が知らないだけで、ネットで調べれば出てくるのかと思ってました(笑)。
――“その墨で手紙を書けば、相手に必ず本心が伝わる。ただし書いた本人は死んでしまう”という遺言墨、確かにリアルですよね。
モモコ:教室のなかの人間関係もすごくリアルで。同じ場所にいて、同じ時間を過ごしているんだけど、違う視点がいっぱい盛り込まれているのが興味深かったです。カーストの位置によっても、見えてるものが全然違いますよね。
乾:そう感じてもらえて嬉しいです。群像劇にしたのは、同じ出来事であっても、人によってまったく違う捉え方になることを描きたかったからなので。
モモコ:もし高校生のときにこの小説を読んでたら、“三井”に共感したと思います。ちょっと空気が読めないところがある女の子なんだけど、読み進めていくと、「もしかしたら考えて発言しているのかな」と感じるところもあって。かなり重要な登場人物ですよね。
乾:そうですね。三井はカーストの位置に関係なく、興味のある人、いいなと思った人に話しかける性格で。こういう子が理想なのかもしれないけど、ただ、もし三井に話しかけられなかったら、「おまえの人間性に興味がない」ということでもあるかなと。
モモコ:そうなると救いがないですね……。
乾:そうなんです。三井はジョーカーというか、切り札的な存在なんですよね。
モモコ:なるほど。今だったら、“井ノ川”に共感しちゃいますね。
――井ノ川は、スクールカーストのトップに君臨する女子生徒ですね。10年後は地方のテレビ局のアナウンサーになっています。
モモコ:私自身は“スクールカースト上位”ではまったくなかったけど、今はなぜか芸能界という特殊な世界にいて。たぶん「あいつは同窓会とか来ないだろう」みたいな立ち位置にされている気がするんですよ。
乾:そういうふうに読んでもらえるのもありがたいですね。これは私の個人的な意見ですが、この小説は読んでくれた人の体験、たとえば「高校時代、まわりにどんな人がいたか」「どんな立ち位置だったか」だったり、現在の状況によって、感想が違ってくるんじゃないかと思うんです。