『僕のヒーローアカデミア』暗雲立ち込める最終章のはじまり 生き方を迫られるヒーローたちは今後どうなるのか

 『ヒロアカ』と『呪術廻戦』の2作は、コロナ以前から進めていたエピソードが、コロナ禍になったことで作品世界と現実の乖離が起きていたのだが、物語が新章に入る際に、現実と作品の溝を埋めるため、作品世界のベースとなっていた秩序が崩壊して、混乱する世界を描いている。

 フィクションなのだから、現実を無視して描き続ければいいと思う方も多いかもしれない。しかし、堀越と芥見は漫画以上に荒唐無稽な世界となった現実と対峙するために、作家としての想像力を総動員して現実以上に混沌とした世界を紡ぎ出すことを選択した。物語の力で現実と向き合おうとする漫画家としての意地に何より圧倒される。

 これは各キャラクターの物語に関しても同様だ。オールマイト引退後、No.1ヒーローとして活躍していたエンデヴァーは「幼少期に父親から受けた苦しみ」を息子の轟澄矢ことヴィランの荼毘がテレビで暴露したことでヒーローとしての信頼が失墜。過去に自分がした家族に対する罪に苦しむことになる。この場面は、過去の失言や過ちが暴露されることでセレブやスターの社会的地位が失墜する“キャンセルカルチャー”そのものであり、読んでいていたたまれない気持ちになる。

 傲慢な父親として家族をないがしろにしてきたエンデヴァーが、良き父、良きヒーローとして更生していく姿は、少年漫画の『ヒロアカ』に大人の苦味を与えていたが、作者は更生したエンデヴァーを再び地獄の底に突き落とすことで「過去の過ち」と改めて向き合わせようとする。

 一方、主人公のデクも選択を迫られる。病院で昏睡状態にあったデクは夢の中で個性「ワン・フォー・オール」の力の源となっている歴代の個性継承者たちと対面する。そこでデクは死柄木弔を殺せるか? と(死柄木の祖母・志村菜奈から)問われる。切羽詰まった状況を理解しつつも、死柄木を殺すのではなく助けたいとデクは言う。デクの志に胸を打たれた歴代継承者たちは彼に力を貸すことを約束するのだが、一方でデクは友達を巻き込みたくないという思いから英雄高校の仲間たちに別れを告げる。

 最後のページでは「終章開幕」と書かれ「でっけー敵(ヴィラン)」という第一巻冒頭でデクが発した台詞が反復される。物語が一巡し、終わりに向けて物語が動き出したことがわかる上手い構成だが、デクは一人ぼっちで、コスチュームはズタボロ。目も虚ろだ。今後、デクは一人で戦うことを選ぶのか? ヒーローとヴィランの生き様が複雑に絡み合う最終章のはじまりに注目である。

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