『ルックバック』「漫画」の力を信じている作家が描いた、力強い「背中」に込めたもの
「漫画」の力を信じている
『ルックバック』に話を戻せば、「藤」野と京「本」というのは、その名前を構成する文字からして、どちらも藤本タツキの分身だと考えていいだろう(さらに「京」の字にも、おそらくはある意味が込められているはずだが、ネタバレになるため、ここでは触れないでおく)。つまり、藤野と京本のふたりは、作者の中で共存する、プロのエンターテイナーとして読者を喜ばせたい漫画家と、純粋に絵描きとしての高みを目指したいアーティストの二面性を象徴しているわけだが、現在の藤本タツキがどういう境地にいるかは、この漫画のラスト(あるいは、134ページの、藤野のネームを読んだ直後の京本の笑顔)を見れば一目瞭然だ。
いずれにせよ、一見、暴力的な作品の数々を撮りながらも、タランティーノが「映画」の力を信じているように、藤本タツキもまた、「漫画」の力を信じている“作家”だ。『ルックバック』を読めば――そして、同作の最後の3ページで、立て続けに描かれている主人公の力強い「背中」を見れば、そのことがよくわかる。
『チェンソーマン』の第2部ももちろん楽しみだが、藤本タツキのこの種の読切作品を、できることなら今後も、もっともっと読みたいと思う。
■作品情報
『ルックバック』
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496401369355